・・・このような観念の結合連鎖によって組み立てた力学物理学は吾人にとって非常に便宜なものであるが、しかしまたこの建設物が唯一な必然なものだとは信じられない。現在と全く異なった一つの力学系統を構成する事は不可能ではあるまい。現在の系統は一朝一夕に発・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・連句では一景から次の景またその次の景への推移と連絡の必然性によって呼び出される暗示の世界に興味の大半がつながれているが、レビューではそういう連鎖の必然性はほとんど閑却されているようである。それ故に、連句三十六景のコンチニュイティは容易に暗記・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・そうしてみた後にわれわれは、事によると、せっかくのその修正の成果が意外にも単調一律なよそ行きの美句の退屈なる連鎖になりおおせたことを発見して茫然自失するようなことになりはしないか。 連句と音楽とのいろいろな並行性を考えるときに、いつも私・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・劇の一段がたった五六行で、始まるかと思うとすぐしまわねばならぬと思うのに、作者は大胆にも平気でいくらでも、こんな連鎖を設けている。無論マクベスの発端のように行数は短かくても、興味の上において全篇を貫く重みのあるものは論外であるが、平々凡々た・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・これでは相互を了解する知識も同情も起りようがなく、せっかくかたまって生きていても内部の生活はむしろバラバラで何の連鎖もない。ちょうど乾涸びた糒のようなもので一粒一粒に孤立しているのだから根ッから面白くないでしょう。人間の職業が専門的になって・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・ 私の囲りには常にめぐみと友愛と骨肉のいかなる力も引き割く事の出来ない愛情の連鎖がめぐって居るではないか。 実に感謝すべき事である。 夢の如く生れて音もなく消え去った私の妹の短かい、何の足跡も残さない一生涯を見るにつけ、知らず知・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・人生と文学との脈うちは、事象の連鎖にだけあるのではなくて、その事象が人間にもたらすもの、更にそれを、損傷や痛恨をさえ人間の真実の豊富さへの糧として人生へおくりものする、そのつながりの切実さにあると思われる。報告文学が、きびしい時間の篩を忍ば・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・ 一個の社会を形ち造る以上、個々人は決して連鎖のない一つの石っころではない。絶えず相互の利害、あらゆる幸・不幸が有形無形に於て影響し合っているのは明であろう。と同時に、一般が、彼等生存の理想、倫理感等によって認めた肯定の範囲に於ては、一・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・為に、老若と云う時間的な差は、全く相互の人間的連鎖を破壊し、一つ地上に生活していながら草木に対する程の愛さえ、互に持ち得ない場合があるのです。科学者の或る者は、自然の大律である淘汰の原則によって、そうであると云うかも知れません。生物学的の立・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・もしこの問題が、連鎖反応式に中央アジアのいくつかの遺蹟の発掘をひき起こしたとしたら、やがて千四百年前の中央アジアの偉観がわれわれの前に展開してくるであろう。 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫