・・・人間生活への思意が複雑明瞭になって来る度につれて、さながらしずかにさしのぼる月の運行に準じてあたりの山野が美しい光に溢れて来るように、人間の美しい精神の輝きとしての責任の感情もひろく、深く、大きいものとなってゆくのである。 こんなに未熟・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ 一九三〇年の春の種蒔どきには、風変りな見かけの三等列車がソヴェト・ロシアのレールの上を運行した。三等列車の鋼鉄ではられた外側いっぱいに「五ヵ年計画を四年で!」というスローガンや、工場と農村の労働、その結合を主題にした絵、または一目見て・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 平和のために、というひとつのねがいは、太陽のように、世界の諸人民の間に運行しています。三月八日の婦人の日が、一部のひとの策動だなどと宣伝されることの真相は、おのずからあきらかとなりました。戦争で世界をかきまわそうとする人々は、世界の人・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・太陽をめぐる天体の運行が形容の例にとられ、そのような「拘束でない節制」を文化にもたらす組織として成立し、事業を物故文芸家慰霊祭、遺品展覧会、昨年度優秀文学作品表彰、機関誌『文芸懇話会』の発行とした。そして昭和九年度の文芸懇話会賞は会員である・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・親たちはどちらかというと自分たちの生活に没頭していて、そのむき出しな率直な大人の世界の幅ひろい濤裾へ、私たち子供の生活をもひっくるめて、朝から夜が運行していた。 そういう熱っぽい空気の裡で、早熟な総領娘のうける刺戟は実に複雑であった。性・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・の作者の心理主義の傾向に、こういう外国文学との近似性が感じられるにせよ、ソヴェト社会は、その構成と運行の基本をフロイド風の「無意識」の決定権にゆだねているのではないのだから、作品もリアリティーにおいて分裂し失敗している。リベディンスキーの作・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 目下、H町とAとの間にこだわりのある外、生活は滞りなく運行して居ると云ってよいだろう。 Aは健康で、女子学習院、明治、慶応に教え、岩波書店から、彼の最初の著述、「ペルシア文学史考」が出版されそうになって居る。 自分は、正月の太・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 地殻から立ちのぼるあらゆる騒音や楽音、芳香と穢臭とは、皆その雲と空との間にほんのりと立ちこめて、コロコロ、コロコロと楽しそうにころがりながら、春の太陽の囲りを運行する自分達の住家を、いつも包んでいるように思われる。 二本の槲の古木・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ ところが、ここに見落してはならぬことは、そのバルザックが自身の悲喜をも含めて運行するあらゆる社会生活の現象の奥に金の力を看破したと同時に、その威力に屈伏し、広汎な現実生活の社会性、歴史的発展の要因をその関係においては飽くまで受動的に固・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・るとわるくなるということが一面の事実であるとして、その理由となる諸事情は微妙であるが、日本の社会のしきたりが女により多く課しているもの、結婚についての男の我知らずの便宜的な考えかた、日常的な家内安全の運行がせちがらい世に女のやりくりに中心を・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫