・・・ 娘は、これは、金星は、早く空に出て、遅く海に入るのだから、早く池の中に飛び込めというのだろうと思いましたから、さっそく手を合わせて、神さまに祈りながら、ざんぶりとばかり、水の中に身を投げ込んでしまったのであります。 その夜から、空・・・ 小川未明 「めくら星」
・・・「海底旅行」や「空中旅行」「金星旅行」のようなものが自分の少年時代における科学への興味を刺激するに若干の効果があったかもしれない。 洪水のように押し込んで来る西洋文学の波頭はまずいろいろなおとぎ話の翻訳として少年の世界に現われた。おとな・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ また、一昨年一二月八日に金星の日食ありて、諸外国の天文家は日本に来て測量したり。この時において、学者は何の観をなしたるか。金の魚虎は墺国の博覧会に舁つぎ出したれども、自国の金星の日食に、一人の天文学者なしとは不外聞ならずや。 また・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・光輝あるわが金星音楽団がきみ一人のために悪評をとるようなことでは、みんなへもまったく気の毒だからな。では今日は練習はここまで、休んで六時にはかっきりボックスへ入ってくれ給え。」 みんなはおじぎをして、それからたばこをくわえてマッチをすっ・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ ※ 星はめぐり、金星の終りの歌で、そらはすっかり銀色になり、夜があけました。日光は今朝はかゞやく琥珀の波です。「まあ、あなたの美しいこと。後光は昨日の五倍も大きくなってるわ。」「ほんたうに眼もさめ・・・ 宮沢賢治 「まなづるとダァリヤ」
・・・光った藁のような金星銀星その他無数の星屑が緑や青に閃きあっている中程に、山の峰や深い谿の有様を唐草模様のように彫り出した月が、鈍く光りを吸う鏡のように浮んでいます。白鳥だの孔雀だのという星座さえそこにはありました。凝っと視ていると、ひとは、・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
出典:青空文庫