・・・科学国の文化への貢献という立場から見れば、むしろ、このほうが帝展で金牌をもらうよりも、もっともっとはるかに重大な使命であるかもしれないのである。 寺田寅彦 「火事教育」
・・・つまり言わば某陶工が帝展において金牌を獲たときにその作品に使われた陶土の採掘者が「あれはおれが骨折って掘ってやった土をそっくりそのまま使って、そうした金牌をせしめておきながら涼しい顔をしている」と言って憤慨するのと似たことが実際にしばしば起・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・そのほかにカーライルの八十の誕生日の記念のために鋳たという銀牌と銅牌がある。金牌は一つもなかったようだ。すべての牌と名のつくものがむやみにかちかちしていつまでも平気に残っているのを、もろうた者の煙のごとき寿命と対照して考えると妙な感じがする・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・そしてついにマリアは、実は彼女の絵の教師が貰ったサロンの金牌を、彼女へおくられたものとして持って来るモウパッサンの愛の偽りに飾られて死ぬのだが、決して、マリアが自分の最後に面した現実はこんな水っぽい、甘いものではなかった。彼女の傑作「出あい・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
出典:青空文庫