・・・ 主人は釣銭を出しながら後の文句を軽くそう答えたのであったが、私はそれをきいていて商売の細かさと合わせ、同じ商売でもこういう特別な商売におのずから滲み出している官僚風な特色をつよく感じた。自分でお書きになってもいいんですというところまで・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ ――私馬車へ二ルーブリ払わなけりゃならないんだけれど、きっと釣銭がないって云うだろうから。 引こんで、三ルーブリ札を二枚もったリーダが廊下へ現れた。 ――さ、これ! ――どうして? 六ルーブリじゃないの! ――かまやし・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・市街電車へ乗り換える所へ来て、改札口で乗越賃を払おうとすると、釣銭がないと言って駅夫が向こうへ取りに行く。釣銭などでグズグズしてはいられないのでそのまますぐ駈け出したくなる。しかしあとから駅夫が大声を出して追い駈けて来たりすると気の毒だと思・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫