・・・の記者は当日の午後八時前後、黄塵に煙った月明りの中に帽子をかぶらぬ男が一人、万里の長城を見るのに名高い八達嶺下の鉄道線路を走って行ったことを報じている。が、この記事は必ずしも確実な報道ではなかったらしい。現にまた同じ新聞の記者はやはり午後八・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・万里の長城を二重にして、青く塗った様なもんだね』『何処で芝居を演るんだ?』『芝居はまだだよ。その壁がつまり花道なんだ』『もう沢山だ。止せよ』『その花道を、俳優が先ず看客を引率して行くのだ。火星じゃ君、俳優が国王よりも権力があ・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・暮れがたになってはさしもに大きな一まちの田も、きれいに刈り上げられて、稲は畔の限りに長く長城のごとくに組み立てられた。省作もおとよさんのおかげで這い回るほど疲れもせず、負恥もかかず済んだ。おはまがもしおとよさんのしぐさを知ったら大騒ぎであっ・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・れたということが神崎清氏の婦人年鑑にあって、それから明治二十三年集会結社法で婦人の政談傍聴禁止がしかれるまで、成田梅子、村上半子、景山英子らの活溌な動きがあったのだが、岸田俊子にしろ当時の自由党員中島長城と結婚してからは、自分の過去の政治活・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫