・・・そうして、全く百日振りくらいで防空服装を解いて寝て、まあこれで、ここ暫くは寒い夜中に子供たちを起して防空壕に飛び込むような事はしなくてすむと思うと、これからさきに於いてまだまだ様々の困難があるだろう事は予想せられてはいても、とにかくちょっと・・・ 太宰治 「薄明」
・・・敵機来襲の時には、妻が下の男の子を背負い、私は上の女の子を抱いて、防空壕に飛び込みます。先日、にわかに敵機が降下して来て、すぐ近くに爆弾を落し、防空壕に飛び込むひまも無く、家族は二組にわかれて押入れにもぐり込みましたが、ガチャンと、もののこ・・・ 太宰治 「春」
・・・それまでの一年間ばかりはすべてが不安定で、ひろ子は、自分だけが、例えば文学報国会を脱退することで、一層くっきりと目立って孤立することがこわかった。防空壕にたった一人で入っているより多勢といたいこころもちがあった。文学の分野でも、情報局の形を・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫