・・・老博士はこのようなすべての陋習を打破しようと、努めているのであります。えらいものだ。真なるもののみが愛すべきものである、とポアンカレが言っている。然り。真なるものを、簡潔に、直接とらえ来ったならば、それでよい。それに越したことがない。」もう・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・わたしはこれを陋習となして嘲った事もあったが、今にして思えばこれ当然の順序というべきである。観世捻をよる事を知らざれば紙を綴ずることができない。紙を綴ることを知らざれば書抜を書くも用をなさぬわけである。事をなすに当って設備の道を講ずるは毫も・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・てその人物を軽重下等士族の輩が上士に対して不平を抱く由縁は、専ら門閥虚威の一事に在て、然もその門閥家の内にて有力者と称する人物に向て敵対の意を抱くことなれども、その好敵手と思う者が首として自から門閥の陋習を脱したるが故に、下士は恰も戦わんと・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・旧説は両性の関係を律するに専ら形式を以てせんとし、我輩は人生の天然に従て其交情を全うせんとするものなれば、所謂儒流の故老輩が百千年来形式の習慣に養われて恰も第二の性を成し、男尊女卑の陋習に安んじて遂に悟ることを知らざるも固より其処なり、文明・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫