・・・同じ火の芸術の人で陶工の愚斎は、自分の作品を窯から取出す、火のための出来損じがもとより出来る、それは一々取っては抛げ、取っては抛げ、大地へたたきつけて微塵にしたと聞いています。いい心持の話じゃありませんか。」「ムム、それで六兵衛一家の基・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・まだその時分は陶工の名なんぞ一ツだって知っていた訳では無かったが、ただ何となく気に入ったので切とこの猪口を面白がると、その娘の父がおれに対って、こう申しては失礼ですが此盃がおもしろいとはお若いに似ずお目が高い、これは佳いものではないが了全の・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・帰りの電車に揺られながらも、この一団のきたない粘土の死塊が陶工の手にかかるとまるで生き物のように生長し発育して行く不思議な光景を幾度となく頭の中で繰り返し繰り返し思い起こしては感嘆するのであった。 人間その他多くの動物の胚子は始めは球形・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
出典:青空文庫