・・・二人が少しも隔意なき得心上の相談であったのだけれど、僕の方から言い出したばかりに、民子は妙に鬱ぎ込んで、まるで元気がなくなり、悄然としているのである。それを見ると僕もまたたまらなく気の毒になる。感情の一進一退はこんな風にもつれつつ危くなるの・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・世間或は之を見て婦人の嫉妬など言う者もあらんなれども、凡俗の評論取るに足らず、男子の獣行を恣にせしむるは男子その者の罪に止まらず、延いて一家の不和不味と為り、兄弟姉妹相互の隔意と為り、其獣行翁の死後には単に子孫に病質を遺して其身体を虚弱なら・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・いつもの正面の場処から、母が、隔意のある表情で、「いらっしゃい」と軽く頭を下げられる。 自分は居難い心持がした。彼女が何を思って居られるのか判らず、周囲の人も亦、知ったような、判らないような、何処となく不自然な雰囲気を以てかこん・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
出典:青空文庫