・・・良家の集まる者は良国にして、国力の由って以て発生する源は、単に家にあって存すること、更に疑うべきにあらず。然り而してその家の私徳なるものは、親子・兄弟姉妹、団欒として相親しみ、父母は慈愛厚くして子は孝心深く、兄弟姉妹相助けて以て父母の心身の・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ここはこの向うの家の地面なのですが家の人たちが一向かまわないで子供らの集まるままにして置くものですから、まるで学校の附属の運動場のようになってしまいましたが実はそうではありません。」「それは不思議な方ですね、一体どう云うわけでしょう。」・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・ それかと云って、厚着をして不形恰に着ぶくれた胴の上に青い小さな顔が乗って居る此の変な様子で人の集まる処へ出掛ける気もしない。「なり」振りにかまわないとは云うもののやっぱり「女」に違いないとつくづく思われる。 こないだっから仕掛・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ すばらしいメーデーの飾をみようとして、広場に集まる群衆は一時過ぎてもたえなかった。 ソヴェト同盟で、社会主義的社会建設のために全プロレタリアートが闘っている。農民が闘っている。あらゆる芸術家が同時にそのたたかいに参加している。・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・論文でも、文学的作品でも、よいのが集まると、氏は、実に悦んでそのことを話した。瀧田氏のそのよろこびは、単に、雑誌の編輯者という立場からばかりでは決してなかった。氏自身、芸術鑑賞上一見識を持ってい、芸術愛好者としての純粋な亢奮が伴うのであった・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・憲兵の耳と捕縛する手というものは、殆ど人の集まるあらゆる処に張り繞らされた。雑誌という雑誌、本という本、演説という演説、それは総て人民の苦痛を抑えて、この戦争の「聖戦」であること、国民が辛抱すればこの戦争は必ず勝つこと、すべての責任は人民に・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 伊予国の銅山は諸国の悪者の集まる所だと聞いて、一行は銅山を二日捜した。それから西条に二日、小春、今治に二日いて、松山から道後の温泉に出た。ここへ来るまでに、暑を侵して旅行をした宇平は留飲疝通に悩み、文吉も下痢して、食事が進まぬので、湯・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・それは先ずファウストと云うものはえらい物だと聞いてわけも分からずに集まる衆愚を欺いて、協会が大入を贏ち得たのは、尾籠の振舞だと云うのである。これは一応尤らしいが、また強ちそうも言われぬかと思う。ファウストがえらい物だと云うことは事実だとして・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・ しかしこれらの感情のすべてが一個人に集まるのは、ただ彼に対してのみである。それゆえに彼は何人よりも激しく私を不安ならしめる。私は一人でいて彼の名を思い浮かべただけでも、もういらいらし初める。そしてそのいらいらする事が自分ながら癪にさわ・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・ 大正三年ごろの木曜会は、初期とはだいぶ様子が違って来ていたのであろうと思うが、私にはっきりと目についたのは、集まる連中のなかの断層であった。古顔の連中は一高や大学で漱石に教わった人たちであるが、その中で大学の卒業年度の最もあとなのは安・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫