・・・藤村が日本におけるロマンティック時代の先達であって、しかもよく永く苦しい自然主義の時代を自己の文学的業績の集積によって押しとおし得た秘密は、案外にも、一つの小冊子である「千曲川のスケッチ」にこめられている作者の努力にかかっているのではないだ・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ 現代まで科学の成果が集積されて来た跡をかえりみれば、ギリシア時代からオッペンハイマーの業績に到るまで、ただ一つの発見、一つの実験の成果でも洩れなくあつめられている。それだのに、日本においても他の資本主義国においても人間関係方面での実験・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・ 金銭争奪とブルジョア階級の資本の集積のためにとられる結婚制度から殖民政策に到るまでの諸手段とその過程を、バルザックは完膚なく文学に描き出し、その点では全くマルクスやエンゲルスにとってさえも有益で具体的な資料を与えた。然しながら、バルザ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・明日の日本の文学が雄大なものであるためには、今日の生活の現実に徹しなければならず赫々たるものに対してはまことに微々たる如きめいめいの生活の姿に、猶当とは観なかった意義と社会性格の集積を発見してゆくだけの自信と覚悟と勤勉とがなければならないと・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・ 然しながら、そのような今日の到達点の内容こそ、実に積極的に評価され、批判されなければならぬ過去のこれらの努力の集積の上に展開されたものであることは、言うまでもない。芸術価値評価の規準についての論究、社会民主主義文学派の動向に対する注目・・・ 宮本百合子 「『文芸評論』出版について」
・・・然し、キュリー夫人の活動が可能となる様に、歴史の条件が備わって来る迄には長い人間業績の集積がなければならなかった。世界の物理学が原子の問題をとりあげ得る段階に迄到達していたからこそ、ポーランドの精励なる科学女学生の手はピエール・キュリーの創・・・ 宮本百合子 「まえがき(『真実に生きた女性たち』)」
・・・戦時中アメリカが集積した債務はこの移動の一原因にすぎぬ。アメリカの莫大なる天然資源、素晴らしい国内消費、不断に展開しつつある繁栄。これらもまた考慮に入れなければならない。西欧の資本家は利潤と返還資金を待望している。英国がこれらを供給しなけれ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ 人類の理性の集積は、精煉に精煉を重ねて、つみあげられてゆくものです。理性が理性であることを証明するためには、あらゆる歴史の世代が、当面する非理性的な力、無知と権力の暴力とたたかって来ました。そして、それらの暴力はいかに兇暴であるよ・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・煉瓦を積んで大伽藍を造る場合にも多衆の力は働いているが、その力は煉瓦を運ぶ個々の力の集積であってよい。巨石運搬の場合には大綱に取りついた無数の群衆と、その群衆の力を一つにまとめる指導者とが必要である。絵で見ると巨石の上には扇をかざした人が踊・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫