・・・佐渡守だったから、いいが、もし今日のような雑言を、列座の大名衆にでも云ったとしたら、板倉家七千石は、忽ち、改易になってしまう。――「そこでじゃ。今後は必ずとも、他出無用に致すように、別して、出仕登城の儀は、その方より、堅くさし止むるがよ・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・クララはそういう雑言を耳にする度に、自分でそんな事を口走ったように顔を赤らめた。 クララが十六歳の夏であった、フランシスが十二人の伴侶と羅馬に行って、イノセント三世から、基督を模範にして生活する事と、寺院で説教する事との印可を受けて帰っ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ 誰彼の差別も容赦もあらあらしく、老若男女入りみだれて、言い勝ちに、出任せ放題の悪口をわめき散らし、まるで一年中の悪口雑言の限りを、この一晩に尽したかのような騒ぎであった。 如何に罵られても、この夜ばかりは恨みにきかず、立ちどころに・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・互いに悪口雑言をし合っていますうちに、相手の男が、親方のお古を頂戴してありがたがっているような意久地なしは黙って引っ込めと怒鳴ったものとみえます。それが藤吉にグッと癪に触りましたというものは、これまでに朋輩からお俊は親方が手をつけて持て余し・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・、ああ、あのころはよかったな、といても立っても居られぬほどの貴き苦悶を、万々むりのおねがいなれども、できるだけ軽く諸君の念頭に置いてもらって、そうして、その地獄の日々より三年まえ、顔あわすより早く罵詈雑言、はじめは、しかつめらしくプウシキン・・・ 太宰治 「喝采」
・・・じへ、わが下ごころ看破されぬようしみじみ相談持ち掛けたところ、あるじ、はね起きて、病床端坐、知らぬは彼のみ、太宰ならばこの辺で、襟掻きなおして両眼とじ、おもむろに津軽なまり発したいところさ、など無礼の雑言、かの虚栄の巷の数百の喫茶店、酒の店・・・ 太宰治 「創生記」
・・・それらの人達が自分を正しい者としようとして論敵マルクスに加える誹謗と、マルクスを最大の敵とみるブルジョア社会とは、カールにあびせられるだけの雑言をあびせつづけた。それらもイエニーの明るく暖い心持を傷つけることは出来なかった。いつの間にかイエ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
出典:青空文庫