一 学窓への愛と恋愛 学生はひとつの志を立てて、学びの道にいそしんでいるものである。まず青雲を望み見るこころと、学窓への愛がその衷になければならぬ。近時ジャーナリストの喧声はややもすれば学園を軽んじるかに見・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・この雑誌の読者は、すべてこれから文学を試み、天下に名を成そうという謂わば青雲の志を持って居られる。いささかの卑屈もない。肩を張って蒼穹を仰いでいる。傷一つ受けていない。無染である。その人に、太宰という下手くそな作家の、醜怪に嗄れた呟きが、い・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・ などと実に興覚めな事を口走り、その頃は私も一生懸命に勉強していい詩を書きたいと念じていた矢先で、謂わば青雲の志をほのかながら胸に抱いていたのでございますから、たとい半狂乱の譫言にもせよ、悪魔だの色魔だの貞操蹂躙だのという不名誉きわまる事を・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ず、無学の老妻にも逆わず、ひたすら古書に親しみ、閑雅の清趣を養っていたが、それでも、さすがに身辺の者から受ける蔑視には堪えかねる事があって、それから三年目の春、またもや女房をぶん殴って、いまに見ろ、と青雲の志を抱いて家出して試験に応じ、やっ・・・ 太宰治 「竹青」
・・・学者が学問をもって畢生の業と覚悟したるうえは、自身に政治の思想はもとより養うべきも、政壇青雲の志は断じて廃棄せざるべからず。 然るに近日、世間の風潮をみるに、政治家なる者が教育の学校を自家の便に利用するか、または政治の気風が自然に教場に・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ゆえに青雲の志ある者は、ことに勉強することあり。その得、三なり。一、官の学校には、教師の外に俗吏の員、必ず多く、官の財を取扱うこと、あるいは深切ならずして、費冗はなはだ多し。この金を私学校に用いなば、およそ四倍の実用をなすべし。その失、・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・氏の挙動も政府の処分も共に天下の一美談にして間然すべからずといえども、氏が放免の後に更に青雲の志を起し、新政府の朝に立つの一段に至りては、我輩の感服すること能わざるところのものなり。 敵に降りてその敵に仕うるの事例は古来稀有にあらず。殊・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ お日さまの、 お通りみちの 石かけを 深くうずめよ、あまの青雲。」 そしてもういつか空の泉に来ました。 この泉は霽れた晩には、下からはっきり見えます。天の川の西の岸から、よほど離れた処に、青い小さな星で円くかこまれ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
出典:青空文庫