・・・――ずり落ちた帯の結目を、みしと踏んで、片膝を胴腹へむずと乗掛って、忘八の紳士が、外套も脱がず、革帯を陰気に重く光らしたのが、鉄の火箸で、ため打ちにピシャリ打ちピシリと当てる。八寸釘を、横に打つようなこの拷掠に、ひッつる肌に青い筋の蜿るのさ・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・それだから、これらの留置場では、理屈を云わせないために、一寸した口ごたえをしようとしても、看守はその留置人をコンクリートの廊下へひきずり出して、古タイヤや皮帯で、血の出るまで、その人たちが意気沮喪するまで乱打して、ヤキを入れた。殴る者のいな・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・若い交通巡査は、黒い外套の胸をふくらませてしめた皮帯の前へ差した赤い指揮棒の頭をひねくりながらきき終ると、手を帽子へやりロシア風にそれを頭のうしろへずらした。 ――……警察で話して下さい。 御者に向い、 ――警察へ行け。僕はここ・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
出典:青空文庫