・・・くだものを食べると、酔いがさめて、また大いに飲めるようになるよ」 私は彼がこの調子で、ぐいぐいウイスキイを飲み、いまに大酔いを発し、乱暴を働かないまでも、前後不覚になっては、始末に困ると思い、少し彼を落ちつかせる目的を以て、梨の皮などを・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・食物でも肉類などはあまり好きでなかったのが運動をやり出してから、なんでも好きになり、酒もあの頃から少し飲めるようになった。前には人前に出るとじきにはにかんだりしたのが、校友会で下手な独唱を平気でするようになった。なんだか自分の性情にまで、著・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・酒も飲める。食事をしながら舞台の踊を見ることができるようになっていた。また廊下から地下室へ下りて行くと、狭い舞台があって、ここでは裸体の女の芸を見せる。しかしこういう場所の話は公然人前ではしないことになっている。下宿屋の食堂なんぞでもそんな・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ どうして飲めるんだい!」 が、フト彼は丼の中にある小箱の事を思い出した。彼は箱についてるセメントを、ズボンの尻でこすった。 箱には何にも書いてなかった。そのくせ、頑丈に釘づけしてあった。「思わせ振りしやがらあ、釘づけなんぞにし・・・ 葉山嘉樹 「セメント樽の中の手紙」
・・・「上ッたか、下ッたか、何だか、ちッとも、知らないけれども、平右衛門の台辞じゃアないが、酒でもちッと進らずば……。ほほ、ほほ、ほほほほほほほ」「飲めるのなら、いくらだッて飲んでおくれよ。久しぶりで来ておくれだッたんだから、本統に飲んで・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・「牛乳だといくらでも飲めるから、きのうは牛乳二合ばかり、今日は葛湯も少したべた」 まさ子は、大儀そうに小さい声で、「ああ、ああ」と云い、先ず肱をおろし、肩をつけ、横たわった。 千世子が下で、疲れるんだって、と云った時、微・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・あんなに静かに流れ、手ですくっておいしく飲めるその水が、天からどうどうと降りそそげば、彼等の穴ぐらは時々くずれたり狩に行けないために飢えなければならない時さえあった。未開な暗さのあらゆる隅々に溢れる自然の創造力の豊かさを驚き崇拝した原始の人・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫