・・・ 駭然として、「私を。」「内方でおっしゃいます。」「お召ものの飾から、光の射すお方を見たら、お連れ申して参りますように、お使でございます。」と交る交るいって、向合って、いたいたけに袖をひたりと立つと、真中に両方から舁き据えた・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・かくてすすむほどに山路に入りこみて、鬱蒼たる樹、潺湲たる水のほか人にもあわず、しばらく道に坐して人の来るを待ち、一ノ戸まで何ほどあるやと問うに、十五里ばかりと答う。駭然として夢か覚か狐子に騙せらるるなからむやと思えども、なお勇気を奮いてすす・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・その一つ一つを、こんにちわたしたちが民主主義文学運動のなかにもっている諸問題とてらしあわせてよむとき、深い興味があるばかりでなく、むしろ駭然とさせられるところがある。この一巻に集められている二十数篇の評論、批評は、理論的に完成されていない部・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 所謂名流家庭の親たちの中では駭然として或る恐怖を感じたひとびともあったであろう。好奇心に驚きの混った感情で、忽ち話題の中心とした令嬢らの夥しい数があったであろうことも、女子学習院という貴族の女学校に良子さんが籍をおいていた以上想像され・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 年増の女は駭然として「だけど月経がさ」と座りなおしたような声を出した。「フッ!」「いや女は……」 男は真面目に云った。「見たような気はしないし、ちょいちょい、ちょいちょい行きたくって」「懲りてるのさ私、この・・・ 宮本百合子 「町の展望」
出典:青空文庫