用紙節約から廃刊になるということはさけがたいことながらやはりそれぞれにつながる編輯者のこれ迄の御骨折りや読者の好意について感想を新しくいたします。これ迄の足かけ八年間にこの雑誌のつくして来た文化の上での意義が読者の生活の裡・・・ 宮本百合子 「終刊に寄す」
・・・素人にとって何のちがいも分らない骨折りを、仕事への良心のために、敢て重ねてゆく工人は果して何人あるだろう。しかも、そういう迂遠な道を厭わぬ人たちによって、染色という技術の水準は守られ高められてゆくのである。 現在既にそうなって来ているの・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・自分のうちにそのような可能を発見しそれを信じ、その実現のために最大の骨折りを惜しまず生きとおす者は、それは人類のなかの人類、人間の中の人間であるということを、明瞭に知って自分の生活の感情としようとしているひとは、果して何人あるだろうか。・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・学者や作家が自身の才能のよりゆたかな開花とより豊純な真と美の追求をとおして、民主社会の促進に参加することはむだな骨折りであり得るだろうか。 宮本百合子 「誰のために」
・・・「御自分の御心に御きき遊ばせ、世の中の若いまだ世間を知らない方なんと云うものは、とっくに人の知って居ることをなおかくそうかくそうと骨折りをしてその骨折がいのないのを今更のようにびっくりするかたが多いもんでございます。貴方さまも其の中の御・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ ひろ子は、死んだ自分が又生きられたことを、吉岡の骨折りときりはなして考えることが出来なかった。重吉はそのいきさつを知っていた。重吉の病気を吉岡に診せたがっているひろ子の気持も度々つたえられていた。 十月十四日に帰って来たとき、重吉・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・光尚が見て、「手を負ったな、一段骨折りであった」と声をかけた。黒羽二重の衣服が血みどれになって、それに引上げのとき小屋の火を踏み消したとき飛び散った炭や灰がまだらについていたのである。「いえ。かすり創でござりまする」権右衛門は何者かに水・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・けれども、自分のその気持を秋三に知らさない限り、自分の骨折りが何の役に立つだろう。そう思うと彼には秋三の罵倒が眼に見えた。が、また自分に安次を引き受ける気持のある以上、敵の罵倒に反抗し得るだけの力は、自然出て来るであろうと思われた。・・・ 横光利一 「南北」
・・・ どうでも良いことばかり雲集している世の中で、これだけはと思う一点を、射し動かして進行している鋭い頭脳の前で、大人たちの営営とした間抜けた無駄骨折りが、山のように梶には見えた。「いっぺん工場を見に来てください。御案内しますから。面白・・・ 横光利一 「微笑」
・・・楓の樹が数十本もあると、その下に一、二寸に積もっているもみじの落葉を掃除するのはなかなかの骨折りであった。もみじの落葉を焚いて酒を暖めるというのが昔からの風流であるが、この落葉で風呂を沸かしたらどんなものであろうと思って、大きい背負い籠に何・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫