・・・風死し林黙す。雪しきりに降る。燈をかかげて戸外をうかがう、降雪火影にきらめきて舞う。ああ武蔵野沈黙す。しかも耳を澄ませば遠きかなたの林をわたる風の音す、はたして風声か」同十四日――「今朝大雪、葡萄棚堕ちぬ。 夜更けぬ。梢をわたる風の・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・それがこの終戦後の、日本はじまって以来の大混乱の姿を見て、もはや黙すべからずと、かれの本性を私に打ち明け、また私の兄と弟とを指摘して兄弟三人、力を合せて日本を救え、他の男は皆だめだと言ったのです。私たちの母の説に依れば、百年ほど前から既に世・・・ 太宰治 「女神」
・・・との下で、無垢な人間精神の自然な発展が、どんなに圧迫され型をおしつけられ、しかも若く稚い人たちにとってそれとのたたかいがいかに困難無残をきわめているかということを、これらの作家たちは、よりゆたかな心に黙すことの出来ない迄感銘させられているか・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫