・・・若い世代でいい科白の書けるのは、最近なくなった森本薫氏ぐらいのもので、菊田一夫氏の書いている科白などは、森本薫氏のそれにくらべると、はるかにエスプリがなく、背後に作者のインテリゼンスが感じられず、たとえば通俗小説ばかり書いている人の文章が純・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・それは多くは醜悪なものであり、最もいい場合でも、すでに青春を失ってしまったところの、エスプリなき情事にすぎないからだ。 二 倫理的憧憬と恋愛 性の目ざめと同時に善への憧憬が呼びさまされるということは何という不思議な、・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・科学者のM君は積分的効果を狙って着実なる戦法をとっているらしく、フランス文学のN君はエスプリとエランの恍惚境を望んでドライブしているらしく、M夫人の球はその近代的闊達と明朗をもってしてもやはりどこか女性らしいやさしさたおやかさをもっているよ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・といったのはやはり詩人の Jenx d'espritであったのだ。しかし自分は無論己れを一世の大詩人に比して弁解しようというのではない。唯晩年には Sagesse の如き懺悔の詩を書いた人にも或時はかかる事実があったものかと不思議に感じた事・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・パスカルの語を借りていえば、単に l'esprit de gomtrie[幾何学の精神]でなくて、l'esprit de finesse[繊細の精神]というものがあると思う。フランス哲学の特色は後者にある。同じデカルトの流を汲んだ人でも、マ・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
出典:青空文庫