・・・ 女は、マットに片手をついて横坐りのまま、じっとしていた。「誰にも言いやしない。いいから、早く出て行って呉れないか。」 女の子には、何よりもナイフが欲しかった。光る手裏剣が欲しかった。流石に、下さい。とは言い得なかった。汗でぐし・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ 私は又、実際、セコンドメイトが、私の眼の前に、眼の横ではいけない、眼の前に、奴のローラー見たいな首筋を見せたら、私の担いでいた行李で、その上に載っかっている、だらしのないマット見たいな、「どあたま」を、地面まで叩きつけてやろう! と考・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・日本のきょうの社会ではヤミのシャンパンはメチールをまぜてキャバレーの床に流れても、つつましい共稼ぎの若い夫婦の人生を清潔に、たのしくさせるカフェテリヤもなければ、オートマットもない。きょう、やかましい産児制限のことも、こうして、住む家をもた・・・ 宮本百合子 「離婚について」
出典:青空文庫