・・・赤い花、黄な花、紫の花――花の名は覚えておらん――色々の花でクララの頭と胸と袖を飾ってクイーンだクイーンだとその前に跪ずいたら、槍を持たない者はナイトでないとクララが笑った。……今は槍もある、ナイトでもある、然しクララの前に跪く機会はもうあ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ こわれたカブトを気にして居るナイトのドンキホーテと同じ木の根に腰をかけて仲よくして居るところを見ると、やっぱり何かの血縁にでもなって居るのかもしれない。 偉かった筈のクロムウェルは何か思いに沈んで額を押えて居るし、ポルトガルのヘン・・・ 宮本百合子 「暁光」
・・・母はもうゆるいナイトコートを着て房々した毛もとかれて居ます。詩人はおとなしくたち上って紙をかさねてその上にインクスタンドを置いて、詩「お母さん、どうもおまち遠さま。我まま云ってすみませんでした」 美くしい詩を作る人は親にもやさしゅう・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫