・・・君チャンノオ母ッチャハ、ナンデ今フユデナイカト云ッテ、泣イテバカリ居タノ。 オ父ッチャモ泣イテルノ。ムネイタイノ、ト君チャンガキクト、イヤト頭ヲフルノ。アトニナッテ、又ムネイタイノ、トキクト、ダマッテ目ヲツブッテ、ソレカラムネナンテ何ン・・・ 小林多喜二 「テガミ」
・・・ 二人の士官が、ともへ帰ると、ボースンとナンバンとが呼ばれた。 彼等は行った。 船長は、横柄に収まりかえっていられる筈の、船長室にはいなくて、サロンデッキにいた。 ボースンとナンバンとが、サロンデッキに現れるや否や、彼は遠方・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ 一体何の競争をしていたのでしょう、蜘蛛は手も足も赤くて長く、胸には「ナンペ」と書いた蜘蛛文字のマークをつけていましたしなめくじはいつも銀いろのゴムの靴をはいていました。又狸は少しこわれてはいましたが運動シャッポをかぶっていました。・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・けれども、第二のナンを用ってあらわしてある方が、もう少し私には安心な心持がし、又日本の目下の警察ではあれを許しはすまい。 ト翁が、代りに用っていいとして第二の方を書いて置いて下すったことを感謝する。 ○雨がひどく降って居る故か、・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・東條を頭目とする日本の戦犯者の国際裁判の最終日に、キーナン検事が、「正義を伴わない文明は背理である」といった言葉のうちには、人類の正義への評価があった。第一次大戦後、平和のための国際連盟にアメリカが、最大の能力をもちながら加入しなかったこと・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・一八三二年六月五日、六日ラマルク将軍の葬式に際し60フランかせぎたい 一個人間として自信をもちたい)○リュシアンはナンシーにゆく。陰気で保守的な反政府的な反ブルジュア的な王党派の町。くさるリュシアン○小麦商ボナール氏のところに部屋を・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・ですがその奥さまというのが、僕のためにはナンともいえない好い方で、その方の事を考えても、話にしても、何だか妙に嬉しいような悲しいような心持がして来るんです。美人といえばそれまでですが、僕はあんな高尚な、天人のような美人は見た事がないんです。・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫