・・・「――あのスター、写真で見るとスマートだけど、実物は割にチビで色が黒いし、絶倫よ」 その言葉はさすがに皆まで聴かず、私はいきなり静子の胸を突き飛ばしたが、すぐまた半泣きの昂奮した顔で抱き緊め、そして厠に立った時、私はひきつったような・・・ 織田作之助 「世相」
・・・彼女たちの好みにまかせておれば、スマートな、物わかりのいい、社会的技能のあるような青年がふえても、深みと、敦みのある理想主義の青年などは減っていきそうに見える。貧困とたたかって民族的・社会的革新のためにたたかうような青年などはお目にとまりそ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・恋を雑に、スマートに、抜け目なく、取り扱わないようにくれぐれもいましめたい。結婚後の恋愛は蜜月や、スイートホームの時期をへて、次第に、真面目な地についた人生の営みのなかにはいってゆく。こうして夫婦愛が恋愛の健全な推移としてあらわれてくる。そ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・しかしながら、スマートというものは八寸五分迄に限るという事を発見いたしました。」 ということで、ご自分が、その八寸五分のスマートに他ならぬと固く信じて疑わぬ有様で、まことに春風駘蕩とでも申すべきであって、「僕の顔にだって、欠点はある・・・ 太宰治 「散華」
・・・いつだったかしら、あたしが新橋駅のプラットフォームで、秋の夜ふけだったわ、電車を待っていたら、とてもスマートな犬が、フォックステリヤというのかしら、一匹あたしの前を走っていって、あたしはそれを見送って、泣いたことがあるわ。かちかちかちかち、・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・いよいよその時代が来るころには、あるいは草木染めの手織り木綿が最もスマートな都人士の新しい流行趣味の対象となるという奇現象が起こらないとも限らない。銀座で草木染めが展観されデパートで手織り木綿が陳列されるという現象がその前兆であるかもわから・・・ 寺田寅彦 「糸車」
一 永遠の緑 この英国製映画を同類の米国製レビュー映画と比べると一体の感じが随分ちがっている。後者の尖鋭なスマートな刺戟の代りに前者にはどこかやはり古典的な上品な滋味があるような気がする。 この映画の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・鈍重なスコッチとスマートなロンドン子と神経質なお坊っちゃんとの対照が三人の俳優で適当に代表されている。対話のユーモアやアイロニーが充分にわからないのは残念であるが、わかるところだけでもずいぶんおもしろい。新入りの二人を出迎えに行った先輩のス・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ そんなことを考えながら、T君の山男のような蓬髪としわくちゃによごれやつれた開襟シャツの勇ましいいで立ちを、スマートな近代的ハイカーの颯爽たる風姿と思い比べているうちに、いつか快い眠りに落ちて行ったことであった。・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ キャディが三人、一人はスマートで一人はほがらかな顔をしているがいずれも襟頸の皮膚が渋紙色に見事に染めあげられている。もう一人はなんだか元気がなくて襟頸もあまり焼けていない。どうした訳かと聞いてみるとまだ新米だそうである。まだ新米にさえ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
出典:青空文庫