出典:青空文庫
・・・「よかったわね、やっぱりこのカラーの型にして」「そりゃそうさ、お嫂さんたらVにするなんて。そんなのないわ」 裾の長さまできめてから、多喜子は自分も立ち上って、出来栄えを眺めた。「思ったよりよかったこと――お袖のところいいかし・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・白い布で頭をくるみ、作業服に白いカラーを見せ、優しくしっかりした横顔を見せている遠景には、何か工具らしいものが覗いている。女子の能力は男子の七十パーセント以上である、近代重工業にもふさわしい、と云われて、女子の技術補導所があちこちにつくられ・・・ 宮本百合子 「郵便切手」
・・・赤襟巻の夕刊売子がカラーなしの鳥打帽をつかまえて云っている。 ――ペニー足りねえよ! ――うむ……ねえんだ。 ――持ってるって云ってやしねえ。だが、俺にゃペニー不足におっつけて手前あくるみ食ってやがる。ペッ! 白手袋の巡査が・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・ツルツルに剃って、粉をふった頤を、雪のように高いカラーの上にのせて、白い手袋をもって、輝く靴の後では拍車が歩くたんびに鳴っている。 二人の将校はわたしたちの後に立って、おしきせとの問答をきいていたが、なかの一人が、わたしに向って、カドリ・・・ 宮本百合子 「ワルシャワのメーデー」
・・・美を装い艶を競うを命とする女、カラーの高さに経営惨憺たる男、吾人は面に唾したい、食を粗にしてフェザーショールを買う人がある。家庭を破壊してズボンの細きを追う人がある。雪隠に烟草を吹かし帽子の型に執着する子供を「人」たらしむべき教育は実に難中・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」