-
・・・青春のころのナイチンゲールの写真にも、こがれた。けれども、いま、眼のまえに在るこの若い、処女のままの母を見ると、てんで比較にも何も、なりやしない。この母は、怜悧の小さい下婢にも似ている。清潔で、少し冷たい看護婦にも似ている。けれども、そんな・・・
太宰治
「俗天使」
-
慈悲の女神、天使として、フロレンス・ナイチンゲールは生きているうちから、なかば伝説につつまれた存在であった。後代になれば聖女めいた色彩は一層濃くされて、天上のものが人間界の呻吟のなかへあまくだった姿のように語られ描かれてい・・・
宮本百合子
「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」