出典:青空文庫
・・・曲はバッハのフーガ。「莫迦! そんなことで日本一のヴァイオリン弾きになれるか」 怒って庄之助はそういい捨てて、蚊帳の中へはいってしまった。 寿子はベソをかきながら、父のあとについて蚊帳の中へはいろうとすると、「お前は蚊帳の外・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・普段、モオツァルトだの、バッハだのに熱中しているはずの自分が、無意識に、「唐人お吉」を唄ったのが、面白い。蒲団を持ち上げるとき、よいしょ、と言ったり、お掃除しながら、唐人お吉を唄うようでは、自分も、もう、だめかと思う。こんなことでは、寝言な・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・充分な情緒と了解をもってモザルト、シューマン、バッハなどを演奏する……。」 私が初めてアインシュタインの写真を見たのはK君のところでであった。その時に私達は「この顔は夢を見る芸術家の顔だ」というような事を話し合った。ところがこの英国の新・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・しかしこのクルト・ワイルのジャズにはそれがみじんもなくて、ゲーテやバッハを生んだドイツ民族の情緒が濃厚ににじみだしている。そうしてそれでいて同時にまたどれにもどこかしら Gallow Song しかもやはりイギリスらしいそれの味がしみじみと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ ここまで書いた時に宅のラジオが鳴り出して、バッハのト短調、チェンバロ・コンチェルトというのを聞かせてくれた。いつ聞いても心持の悪くないものはこういう古典的な音楽である。からだ中の血液の濁りを洗うような気がする。こういうものが、うちの机・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」