出典:青空文庫
・・・ですらもはや問題でないという顔つきで、フランス最近の画界を代表する人たち――ことに、ピカソオなぞを口にするような若者になっていた。「とうさん、今度来たビッシェールの画はずいぶん変わっているよ。あの人は、どんどん変わって行く――確かに、頭・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・私が自分の部屋を片づけ、狭い四畳半のまん中に小さな机を持ち出し、平素めったに取り出したことのないフランスみやげの茶卓掛けなぞをその上にかけ、その水色の織り模様だけでも部屋の内を楽しくして珍客をもてなそうとしたころは、末子も学校のほうから帰っ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ そのほかロシヤでも、よゆうの少い沿海州の市民たちでさえも、全力をあげて日本を救えとさけび、フランス、イタリー、メキシコ、オーストラリヤでは、日をきめて興行物一さいをさしひかえ各戸に半旗を上げて、日本の不幸に同情を表し、義えん金を集めま・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・いまだ嫁がず、鉄道省に通勤している。フランス語が、かなりよくできた。脊丈が、五尺三寸あった。すごく、痩せている。弟妹たちに、馬、と呼ばれることがある。髪を短く切って、ロイド眼鏡をかけている。心が派手で、誰とでもすぐ友達になり、一生懸命に奉仕・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・ 性質はまじめな、たいへん厳格で律儀なものをさえ、どこかに隠し持っていましたが、それでも趣味として、むかしフランスに流行したとかいう粋紳士風、または鬼面毒笑風を信奉している様子らしく、むやみやたらに人を軽蔑し、孤高を装って居りました。長・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・ 洋画を通じてルソーやマチスや、ドランやマルケーなどのようなフランス絵の影響がこっそり日本画の方へ入り込んでいるのを発見する。日本の芸術がフランスを一と廻わりして後にもう一遍日本へ帰って来たのである。 洋画でも日本画でも人物の顔をな・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・そうしてそれはロシア人にもフランス人にも日本人にも共通に通用するものでなければならない。そうだとすれば、それはまた必ずしも映画以来はじめて発明されたものではなくして、少なくも原理としてはすでにあらゆる他の芸術に存在していると同じような指導原・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・「いまお父さんは市の収入役してるよ、アメリカ人でも、フランス人でもお父さんのところへ相談にくるんだよ」「フーム」 私は写真帳を見ながら、すっかり感心してしまった。そして林が何故、私のこんにゃく売りを軽蔑しないか、それがわかった気・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・三吉は彼にクロポトキンを教えられ、ロシア文学もフランス文学も教えられた。土地の新聞の文芸欄を舞台にして、彼の独特な文章は、熊本の歌つくりやトルストイアンどもをふるえあがらせた。五尺たらずで、胃病もちで、しなびた小さい顔にいつも鼻じわよせなが・・・ 徳永直 「白い道」
・・・アメリカの曠野に立つ樫フランスの街道に並ぶ白楊樹地中海の岸辺に見られる橄欖の樹が、それぞれの姿によってそれぞれの国土に特種の風景美を与えているように、これは世界の人が広重の名所絵においてのみ見知っている常磐木の松である。 自分は三門前と・・・ 永井荷風 「霊廟」