出典:青空文庫
・・・それゆえにヤコブのように、われわれの出遭う艱難についてわれわれは感謝すべきではないかと思います。 まことに私の言葉が錯雑しておって、かつ時間も少くございますから、私の考えをことごとく述べることはできない。しかしながら私は今日これで御免を・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・ペテロに何が出来ますか。ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、トマス、痴の集り、ぞろぞろあの人について歩いて、脊筋が寒くなるような、甘ったるいお世辞を申し、天国だなんて馬鹿げたことを夢中で信じて熱狂し、その天国が近づいたなら、あいつらみんな右大臣、左大・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・ただひたすらに、あわてふためいて居るヤコブは誰。キリストの胸のおん前に眠るが如くうなだれて居るこの小鳩のように優美なるヨハネは誰。そうして、最後に、かなしみ極りてかえって、ほのかに明るき貌の、キリストは誰。 山岸、あるいは、自らすすんで・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・二 少し唐突な話ではあるが、旧約聖書にたしかヤコブが天使と相撲を取った話がある。 その相手の天使からイスラエルという名前をもらって、そうしてびっこを引きながら歩いて行ったというくだりがあったようである。その「相撲」がいっ・・・ 寺田寅彦 「相撲」