出典:青空文庫
・・・リヤに御受胎を告げに来た天使のことを、厩の中の御降誕のことを、御降誕を告げる星を便りに乳香や没薬を捧げに来た、賢い東方の博士たちのことを、メシアの出現を惧れるために、ヘロデ王の殺した童子たちのことを、ヨハネの洗礼を受けられたことを、山上の教・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・またおおよそ神によりて生まるる者は世に勝つ、われらをして世に勝たしむるものはわれらの信なりと聖ヨハネはいいました。世に勝つの力、地を征服する力はやはり信仰であります。ユグノー党の信仰はその一人をもって鋤と樅樹とをもってデンマ・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・さて夏の中でもすぐれた美しい聖ヨハネ祭に、そのおばあさんが畑と牧場とを見わたしていますと、ひょっくり鳩が歌い始めました。声も美しくエス・キリスト、さては天国の歓喜をほめたたえて、重荷に苦しむものや、浮き世のつらさの限りをなめたものは、残らず・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、トマス、痴の集り、ぞろぞろあの人について歩いて、脊筋が寒くなるような、甘ったるいお世辞を申し、天国だなんて馬鹿げたことを夢中で信じて熱狂し、その天国が近づいたなら、あいつらみんな右大臣、左大臣にでもなるつもりなのか・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
イエス其の弟子たちとピリポ・カイザリヤの村々に出でゆき、途にて弟子たちに問ひて言ひたまふ「人々は我を誰と言ふか」答へて言ふ「バプテスマのヨハネ、或人はエリヤ、或人は預言者の一人」また問ひ給ふ「なんぢらは我を誰と言ふか」ペテ・・・ 太宰治 「誰」
・・・もしこれが後日、何か雑誌にでも掲載された場合、太宰はキザな奴だ、キリスト気取りで、あのヨハネ伝の弟子の足を洗ってやる仕草を真似していやがる、げえっ、というような誤解を招くおそれなしとしないので一言弁明するが、私はただはだしで歩いている子供の・・・ 太宰治 「美男子と煙草」
・・・マルコ、ルカ、ヨハネ、ああ、ヨハネ伝の翼を得るは、いつの日か。「苦しくとも、少し我慢なさい。悪いようには、しないから。」四十歳の人の言葉。母よ、兄よ。私たちこそ、私たちのあがきこそ、まこと、いつわらざる「我慢下さい。悪いようにはしな・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・いつの時代でも本当の事を言ったら殺されますわね、ヨハネでも、キリストでも、そうしてヨハネなんかには復活さえ無いんですからね、と言った事もあった。日本の生きている作家に就いては一言も言った事が無かった。第四には、これが最も重大なところかも知れ・・・ 太宰治 「メリイクリスマス」
・・・キリストの胸のおん前に眠るが如くうなだれて居るこの小鳩のように優美なるヨハネは誰。そうして、最後に、かなしみ極りてかえって、ほのかに明るき貌の、キリストは誰。 山岸、あるいは、自らすすんでキリストの役を買って出そうであるが、果して、どう・・・ 太宰治 「もの思う葦」