出典:青空文庫
・・・と娘を押し出してコルベット卿がロンドンを出るのを止めさせにやる。こういう場面で、私たちのまわりの現実にありふれた年寄りは、マア、お前、店だってこんなに流行っているのに今更何も云々とか、もう年ごろの娘がいるのにとか、とかく云うであろう。ジェニ・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・二〇年余の看護婦としての経験と彼女の優秀な資格は、ロンドン市立病院の一人の看護婦である彼女を、人生のいろいろの場面に立ちあわせることになりました。行路病者として運びこまれた乞食の臨終に立ちあった彼女は、その優れた資質によってイギリス国王の病・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・ その晩は銀映座で、本の包を膝の上に置きながら、私は、目を瞠って、ロンドンの水晶宮焔上の光景を観た。 数年前の夏の夜、その水晶宮に花火祭があって、私は小さい妹をつれて、それを見物した。そのガラスづくりの巨大な建物が、銀幕の上で燃えと・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・を創り、国際的なつながりでそれを大きくし、一八四七年のロンドン大会で、パリに出来ていたドイツ亡命者の「義人同盟」と合流して初めて「共産主義者同盟」を創った。この第一回大会の決議によってエンゲルスが二十五の問答体で「共産主義原則」を書く筈にな・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・改造文庫で出ているジャック・ロンドンの「野生の呼声」や「ホワイト・ファング」は犬や狼を描いた文学作品の出色のものであるし、キプリングの「ジャングル・ブック」もなかなか豊かな動物と人間の絵巻をひろげている。ハドソンの「ラプラタの博物学者」は、・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・いらないところをどうすてるかということは――君、ジャック・ロンドンを読んだかい?」「読みません」「ぜひ読んで勉強したまえ! われわれは、われわれの前にいい仕事をして行った者の技術は一遍検査しておく必要があるよ」 手をあげて、一人・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・若い母は、ロンドンにいる良人のもとへその洋装姿の写真をおくった。はりぬきの岩に腰をかけ、フェルト靴の先を可愛く白レースと思われた服の裾からのぞかせ、水色カンレイシャで飾られた帽子のつばを傾けて、両手でもった一輪のバラの花を見ている母の写真。・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・それからこっちで名を知られているのは、ロンドンに逃げて行っていて、もう七十近くになっているPeter Alexejewitsch Kropotkin で、その外には亜米利加に Tucker のような人物があるだけでしょう。」「なかなか精・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・あのころ御亭主は用事があってロンドンへ往っておいでになると云うことでしたから。 女。ええ。あの時のあなたの御様子は、まあ、そんな風でございましたのね。 男。それからどうなったかお考えなすって御覧なさい。ある日あなたがおいでになって、・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・「その武器を積んだ船が六ぱいあれば、ロンドンの敵前上陸が出来ますよ。アメリカなら、この月末にだって上陸は出来ますね。」 もう冗談事ではなかった。どこからどこまで充実した話か依然疑問は残りながらも、一言ごとに栖方の云い方は、空虚なもの・・・ 横光利一 「微笑」