出典:青空文庫
・・・大河内子爵の先代や下岡蓮杖や仮名垣魯文はその頃の重なる常連であった。参詣人が来ると殊勝な顔をしてムニャムニャムニャと出放題なお経を誦しつつお蝋を上げ、帰ると直ぐ吹消してしまう本然坊主のケロリとした顔は随分人を喰ったもんだが、今度のお堂守さん・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ これは後に知ったことであるが、仮名垣魯文の門人であった野崎左文の地理書に委しく記載されているとおり、下総の国栗原郡勝鹿というところに瓊杵神という神が祀られ、その土地から甘酒のような泉が湧き、いかなる旱天にも涸れたことがないというのであ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・旧時代の文学的伝統は仮名垣魯文その他の戯作者の生きかたに伝え嗣がれており、維新と開化とに対して、江戸っ子であり旧時代の文化の代表である彼等は皮肉且つ反動として現れざるを得なかった。新興文化の先駆としての福沢諭吉の啓蒙的文筆活動、翻訳小説と、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・を持ち、他方に仮名垣魯文の「胡瓜遣」を持っていたということは、今日の文学の事情にまで連綿として実によく明治というものの複雑な歴史的本質を語っていると思う。 ヨーロッパの文明開化は、人間の合理性や社会性の自覚、人格、個性、自我の自覚の刺戟・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」