出典:青空文庫
・・・クリスマスの夜の空に明月を仰ぎ、雪の降る庭に紅梅の花を見、水仙の花の香をかぐ時には、何よりも先に宗達や光琳の筆致と色彩とを思起す。秋冬の交、深夜夢の中に疎雨斑々として窓を撲つ音を聞き、忽然目をさまして燈火の消えた部屋の中を見廻す時の心持は、・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・並んだ石燈籠の蔭や敷石の上にまるで造花としか見えぬ椿の花の落ち散っている有様は、極めて写実的ならざる光琳派の色彩を思わしめる。互いに異なる風土からは互いに異なる芸術が発生するのは当然の事であろう。そして、この風土特種の感情を遺憾なく発揮する・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・ 宗達は能登の人、こまかい伝記はつまびらかでないが寛永年間に加賀侯に仕え、光琳によって大成された装飾的な画風を創めた画家である。と辞典に短かく書かれてある。 なるほど、小さい絵はがきに見るこの源氏物語図屏風にしろ、魅力をもって先ず私・・・ 宮本百合子 「あられ笹」