出典:青空文庫
・・・質の研究のできていない鈍刀はいくら光っていても格好がよくできていてもまさかの場合に正宗の代わりにならない。 品物について私の今言ったような事が知識や思想についても言われうるというような事にでもなるといよいよ心細くなるわけであるが、そうい・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・ 正宗氏と鍋井氏の絵を見ると、かなり熱心に自分の殻を突き破る事に努力しているという事が感ぜられる。しかしあまりあせり過ぎては、却って自分にある好い物を捨てて自分にないものを追っかける恐れがありはしないか。画家の絵の転機はやはり永い間・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・ 正宗氏の絵が沢山ある。自分はどうした訳か、この人の使用する青や緑と朱や紅との強い対照の刺戟が性に合わないせいでもあるか、どうも親しみを感じる訳に行かない。これは好きな人に取っては好きな特徴となるに相違ない。しかしこの人のような絵は・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・東京市会議員のような機械になってしまったのは無残である。正宗がなまくらになったのは悲惨である。 それにしても、ラジオを商売にしている商売人でありながら、それぞれの機械に固有な感度というものを認めないのが不思議に思われる。正宗を砥ぎにやっ・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・然るにこの度は正宗君が『中央公論』四月号に『永井荷風論』と題する長文を掲載せられた。 わたくしは二家の批評を読んで何事よりもまず感謝の情を禁じ得なかった。これは虚礼の辞ではない。十年前であったなら、さほどまでにうれしいとは思わなかったか・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・夜番のために正宗の名刀と南蛮鉄の具足とを買うべく余儀なくせられたる家族は、沢庵の尻尾を噛って日夜齷齪するにもかかわらず、夜番の方では頻りに刀と具足の不足を訴えている。われらは渾身の気力を挙げて、われらが過去を破壊しつつ、斃れるまで前進するの・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・いつも行く神保町の洋酒屋へ往って、ラッキョを肴で正宗を飲んだ。自分は五勺飲むのがきまりであるが、この日は一合傾けた。この勢いで帰って三角を勉強しようという意気込であった。ところが学校の門を這入る頃から、足が土地へつかぬようになって、自分の室・・・ 正岡子規 「酒」
・・・ 正宗白鳥が、「ひかげの花」を荷風の芸術境地としてそれなりに認め、「人生の落伍者の生活にもそれ相応の生存の楽しみが微にでもあることを自ら示している」ところの、人間の希望を描いた作品であると評したのは、白鳥の日頃からの人生観のしからしめる・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 現代文学の行きづまりが感じられてから、脱出は「雲の会」となり「ロマネスク」の愛好となって賑やかに示威されている。 正宗白鳥の「日本脱出」は、一部の批評家によると、日本のニヒリストが、現代ロマネスクのチャンピヨンとしてあらわれた驚異・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・先に文芸復興の声と共に流行した古典の研究、明治文学の見直し等が、正当な方法を否定していたために、新しい作家の新しい文学創造の養いとなり得なかったことを見て来たが、この過去への瞥見が谷崎、永井、正宗、徳田など、最近の数年間は活動の目立たなかっ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」