出典:青空文庫
この間さがさなければならない本があって銀座の紀伊国屋へよったらば、欲しいものはなかったかわり、思いがけずパウル・ヴォルフの傑作写真集が飾窓に出ているのに気がついた。もうかえろうとして飾窓をふりかえったら、そこにある。見たく・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・たとえば、本屋へ電話がかかって、四十円ほど本を見つくろって届けて下さいと云った家があるとか、新宿の紀伊国屋かどこかへ若い職工さんが入って来て、百円札出してこれだけ本をくれと云ったとか、そんな話がよく耳に入る。 頻々とそういうことがお・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・その中に、インフレーションで急に金まわりのよくなった若い職工さんが、紀伊国屋書店にあらわれて、百円札を出し、これだけ本をくれ、といったという話がひろくつたえられた。出版インフレと云われて、今日になれば価値も乏しい文学書も溢れていたときのこと・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」