出典:青空文庫
・・・私は、歴史的に、悪役を買おうと思った。ユダの悪が強ければ強いほど、キリストのやさしさの光が増す。私は自身を滅亡する人種だと思っていた。私の世界観がそう教えたのだ。強烈なアンチテエゼを試みた。滅亡するものの悪をエムファサイズしてみせればみせる・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・私の名は、商人のユダ。へっへ。イスカリオテのユダ。 太宰治 「駈込み訴え」
・・・という目なき耳なき混沌の怪物までひかえて居る。ユダ。左手もて何やらんおそろしきものを防ぎ、右手もて、しっかと金嚢を掴んで居る。君、その役をどうか私にゆずってもらいたい。私、「日本浪曼派」を愛すること最も深く、また之を憎悪するの念もっとも高き・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・オセロの敏感な自尊心――黒人の劣等感のうらがえされたもの――そのものと、イヤゴーのユダ的性格そのものが、性格と性格の格闘として悲劇を形成している。 現代の悲劇というより、むしろ正劇は、個々の性格間の格闘というよりも拡大されて、人間理性の・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」