と・ける【溶ける/解ける/融ける】例文一覧 28件

  1. ・・・まして光をうけている部分は、融けるような鼈甲色の光沢を帯びて、どこの山脈にも見られない、美しい弓なりの曲線を、遥な天際に描いている。…… 楊は驚嘆の眼を見開いて、この美しい山の姿を眺めた。が、その山が彼の細君の乳の一つだと云う事を知った・・・<芥川竜之介「女体」青空文庫>
  2. ・・・衣を透して、肉を揉み、筋を萎すのであるから恍惚と身うちが溶ける。ついたしなみも粗末になって、下じめも解けかかれば、帯も緩くなる。きちんとしていてさえざっとこの趣。……遊山旅籠、温泉宿などで寝衣、浴衣に、扱帯、伊達巻一つの時の様子は、ほぼ……・・・<泉鏡花「怨霊借用」青空文庫>
  3. ・・・ 紫の袖が解けると、扇子が、柳の膝に、丁と当った。 びくりとして、三つ、ひらめく舌を縮めた。風のごとく駆下りた、ほとんど魚の死骸の鰭のあたりから、ずるずると石段を這返して、揃って、姫を空に仰いだ、一所の鎌首は、如意に似て、ずるずると・・・<泉鏡花「貝の穴に河童の居る事」青空文庫>
  4. ・・・そうして手巾にと紅糸で端縫をしたのが、苦痛にゆがめて噛緊める唇が映って透くようで、涙は雪が溶けるように、頸脚へまで落ちたと言います。」「不可い……」 外套氏は、お町の顔に当てた手巾を慌しく手で払った。 雨が激しく降って来た。・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  5. ・・・ここで暖かに心が解けると、……分かった、饂飩で虐待した理由というのが――紹介状をつけた画伯は、近頃でこそ一家をなしたが、若くて放浪した時代に信州路を経歴って、その旅館には五月あまりも閉じ籠もった。滞る旅籠代の催促もせず、帰途には草鞋銭まで心・・・<泉鏡花「眉かくしの霊」青空文庫>
  6. ・・・と背後むきに、戸棚へ立った時は、目を圧えた手を離して、すらりとなったが、半紙を抽出して、立返る頭髪も量そうに褄さきの運びとともに、またうなだれて、堪兼ねた涙が、白く咲いた山茶花に霜の白粉の溶けるばかり、はらはらと落つるのを、うっかり紙にうけ・・・<泉鏡花「みさごの鮨」青空文庫>
  7. ・・・あの乾枯びたシャモの頸のような咽喉からドウしてアンナ艶ッぽい声が出るか、声ばかり聞いてると身体が融けるようだが、顔を見るとウンザリする、」といった。が、顔を見るとウンザリしてもその声に陶酔した気持は忘れられないと見えて、その後も時々垣根の外・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  8. ・・・霜が溶けるのだろうか。溶けた霜が蒸発するのだろうか。いや、それも昆虫である。微粒子のような羽虫がそんなふうに群がっている。そこへ日が当ったのである。 私は開け放った窓のなかで半裸体の身体を晒しながら、そうした内湾のように賑やかな溪の空を・・・<梶井基次郎「冬の蠅」青空文庫>
  9. ・・・一望の麦畑、麦は五、六寸ほどに伸びて、やわらかい緑色が溶けるように、これはエメラルドグリンというやつだな、と無趣味の男爵は考えた。歩いて五、六分、家は、すぐわかった。なかなかハイカラな構えの家だったので、男爵には、一驚だった。呼鈴を押す。女・・・<太宰治「花燭」青空文庫>
  10. ・・・五次方程式が代数的に解けるものだか、どうだか、発散級数の和が、有ろうと無かろうと、今は、そんな迂遠な事をこね廻している時じゃないって、誰かに言われているような気がするのだ。個人の事情を捨てろって、こないだも、上級の生徒に言われたよ。でも、そ・・・<太宰治「乞食学生」青空文庫>
  11. ・・・ 雪が溶けると同時に、花が咲きはじめるなんて、まるで、北国の春と同じですね。いながらにして故郷に疎開したような気持ちになれるのも、この大雪のおかげでした。 いま、上の女の子が、はだしにカッコをはいて雪溶けの道を、その母に連れられて銭・・・<太宰治「春」青空文庫>
  12. ・・・喉は、白くふっくらして溶けるようで、可愛い。みんな綺麗だ。釣竿を肩から、おろして、「きょうは解禁の日ですから、子供にでも、わけなく釣れるのですけど。」「釣れなくたっていいんです。」佐野君は、釣竿を河原の青草の上にそっと置いて、煙草をふか・・・<太宰治「令嬢アユ」青空文庫>
  13. ・・・それから色々の代数の問題はひとりで楽に解けるようになった。始めて、幾何学のピタゴラスの定理に打つかった時にはそれでも三週間頭をひねったが、おしまいには遂にその証明に成効した。論理的に確実なある物を捕える喜びは、もうこの頃から彼のうら若い頭に・・・<寺田寅彦「アインシュタイン」青空文庫>
  14. ・・・楽器の弦の調子を合わせて行ってぴったりと合ったような、あるいははまりにくい器械のねじがやっとはまった時のような、なんという事なしに肩の凝りがすうっと解けるような気がするものである。 そういうふうにうまく行った所はもう二度といじるのが恐ろ・・・<寺田寅彦「自画像」青空文庫>
  15. ・・・二年振りで横浜へ上陸して、埠頭から停車場へ向かう途中で寛闊な日本服を着て素足で歩いている人々を見た時には、永い間カラーやカフスで責めつけられていた旅の緊張が急に解けるような気がしたが、この心持は間もなく裏切られてしまわねばならなかった。その・・・<寺田寅彦「電車と風呂」青空文庫>
  16. ・・・彼はすぐ怒るだけに又すぐに解ける。殊に瞽女のお石と馴染んでからはもうどんな時でもお石の噺が出れば相好を崩して畢う。大きな口が更に拡がって鉄漿をつけたような穢い歯がむき出して更に中症に罹った人のように頭を少し振りながら笑うのである。然し瞽女の・・・<長塚節「太十と其犬」青空文庫>
  17. ・・・びもとの夫婦に立ち帰って、病妻の看護に身を委ねたというのがモーパサンの小説の筋ですが、男の疑も好い加減な程度で留めておけばこれほどの大事には至らなかったかも知れないが、そうすれば彼の懐疑は一生徹底的に解ける日は来なかったでしょう。またここま・・・<夏目漱石「現代日本の開化」青空文庫>
  18. ・・・それは見ていると、足が砂へつくや否や、まるで雪の融けるように、縮まって扁べったくなって、間もなく熔鉱炉から出た銅の汁のように、砂や砂利の上にひろがり、しばらくは鳥の形が、砂についているのでしたが、それも二三度明るくなったり暗くなったりしてい・・・<宮沢賢治「銀河鉄道の夜」青空文庫>
  19. ・・・ 土神は自分のほこらのまわりをうろうろうろうろ何べんも歩きまわってからやっと気がしずまったと見えてすっと形を消し融けるようにほこらの中へ入って行きました。    八月のある霧のふかい晩でした。土神は何とも云えずさびしくて・・・<宮沢賢治「土神ときつね」青空文庫>
  20. ・・・立つじゃ、空の青板をめざすのじゃ、又小流れに参るのじゃ、心の合うた友だちと、ただ暫らくも離れずに、歌って歌って参るのじゃ、さてお天道さまが、おかくれなされる、からだはつかれてとろりとなる、油のごとく、溶けるごとくじゃ。いつかまぶたは閉じるの・・・<宮沢賢治「二十六夜」青空文庫>
  21. ・・・ ――静けさ明るさに溶けるように、「う? う?」 軟かく鼻にかかった百代の声がした。十六の彼女は従兄の忠一の後に大きな元禄紬の片腕を廻し背中に頻りに何か書いた。「ね? だから」 何々と書くのだろう。忠一はしかつめらしく結・・・<宮本百合子「明るい海浜」青空文庫>
  22. ・・・と読まれたら、私は恐らく悲しさと一緒に身も心も溶けるような寛ろぎを感じて彼女のために泣いただろう。祖母の名は、運といった。 祖母は、九月の下旬から、福島県下の小さな村の家に行っていた。祖父が晩年を過したところで、特徴のない僻村だが、家族・・・<宮本百合子「祖母のために」青空文庫>
  23. ・・・ 凝と坐って耳を傾けると、目の下の湖では淡黄色い細砂に当って溶ける優婉な漣の音が、揺れる楊柳の葉触れにつれて、軽く、柔く、サ……、サ……、と通って来る。心持のよい日だ。 私の周囲を取繞く総てのものは、皆七月の太陽を身に浴びて嬉々とし・・・<宮本百合子「追慕」青空文庫>
  24. ・・・眠いという溶けるような感覚しか何もない。十一時頃茶の間にやっと出た。まだ包紙も解いてないパン、ふせたままの紅茶茶碗等、人気なく整然と卓子の上に置かれている。――奇妙なことと思い、少し不安を感じた。起きた順に、朝食はすまして勉強することに定め・・・<宮本百合子「春」青空文庫>
  25. ・・・私は平静湾の氷は五月に溶けると書きましたが、果して五月にすっかりとけてしまいました。それに、ルドルフ島の天候も私の本にあるのと、全く同じです」「操縦士の空想」を現実のものとして彼等が北極に学術探検隊をおくることに成功したとき、遙かかなた・・・<宮本百合子「文学のひろがり」青空文庫>
  26. ・・・やがてはらはらと、解けるように花が開いてしまう。この時には何の音もしない。最初二ひら三ひら開いたときには、つい見ていなかったのではあるが、しかし側にいたのであるから、音がすれば聞こえたはずである。どうも音なんぞはしないらしい。 それでは・・・<和辻哲郎「巨椋池の蓮」青空文庫>
  27. ・・・ こう考えてくると埴輪の人形の持っているあの不思議な生気のなぞが解けるかと思う。埴輪人形の製作者は人体を写実的に作ろうとしたのではない。ただ意味ある形を作ろうとしただけである。しかし意味ある形のうちの最も重要なものが人の顔面であったがゆ・・・<和辻哲郎「人物埴輪の眼」青空文庫>
  28. ・・・むずかしければこそ藤村君は巌頭に立ち、幾万の人は神経衰弱になる、新渡戸先生でさえ神経衰弱である、鮪のさし身に舌鼓を打ったところで解ける問題でない。魚河岸の兄いは向こう鉢巻をもって、勉強家は字書をもってこの問題を超越している。ある人は「粋」の・・・<和辻哲郎「霊的本能主義」青空文庫>