はい‐ご【背後】例文一覧 36件

  1. ・・・しかしわたしはそれらの背後に、もう一つ、――いや、それよりも遥かに意味の深い、興味のある特色を指摘したい。その特色とは何であるか? それは道徳的意識に根ざした、何物をも容赦しないリアリズムである。 菊池寛の感想を集めた「文芸春秋」の中に・・・<芥川竜之介「「菊池寛全集」の序」青空文庫>
  2. ・・・マルクスは唯物史観に立脚したと称せられているけれども、もし私の理解が誤っていなかったならば、その唯物史観の背後には、力強い精神的要求が潜んでいたように見える。彼はその宣言の中に人々間の精神交渉を根柢的に打ち崩したものは実にブルジョア文化を醸・・・<有島武郎「想片」青空文庫>
  3. ・・・ フレンチは罪人の背後から腕が二本出るのを見た。しかしそれが誰の腕だか分からなかった。黒い筒袖を着ている腕が、罪人の頭の上へ、金属で拵えた、円いのようなものを持って来て、きちょうめんに、上手に、すばやく、それを頸の隠れるように、すっぽり・・・<著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外「罪人」青空文庫>
  4. ・・・ その時打向うた卓子の上へ、女の童は、密と件の将棋盤を据えて、そのまま、陽炎の縺るるよりも、身軽に前後して樹の蔭にかくれたが、枝折戸を開いた侍女は、二人とも立花の背後に、しとやかに手を膝に垂れて差控えた。 立花は言葉をかけようと思っ・・・<泉鏡花「伊勢之巻」青空文庫>
  5. ・・・或る晩、誰だかの落語を聴きに行くと、背後で割れるような笑い声がした。ドコの百姓が下らぬ低級の落語に見っともない大声を出して笑うのかと、顧盻って見ると諸方の演説会で見覚えの島田沼南であった。例の通りに白壁のように塗り立てた夫人とクッつき合って・・・<内田魯庵「三十年前の島田沼南」青空文庫>
  6. ・・・その時女は、背後から拳銃を持って付いて来る主人と同じように、笑談らしく笑っているように努力した。 中庭の側には活版所がある。それで中庭に籠っている空気は鉛のがする。この辺の家の窓は、五味で茶色に染まっていて、その奥には人影が見えぬのに、・・・<著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外「女の決闘」青空文庫>
  7. ・・・ 光治は心のうちで懐かしい少年だと思いながら、静かに少年の背後に立って、少年の描いている絵に目を落としますと、それは前方の木立を写生しているのでありましたが、びっくりするほど、いきいきと描けていて、その木の色といい、土の色といい、空の感・・・<小川未明「どこで笛吹く」青空文庫>
  8. ・・・と若衆も驚いて振り返ると、お上さんのお光はいつの間にか帰って背後に立っている。「精が出るね」「へへ、ちっともお帰んなすったのを知らねえで……外はお寒うがしょう?」「何だね! この暖かいのに」と蝙蝠傘を畳む。「え、そりゃお天気・・・<小栗風葉「深川女房」青空文庫>
  9. ・・・ 翌朝、散歩していると、いきなり背後から呼びとめられた。 振り向くと隣室の女がひとりで大股にやって来るのだった。近づいた途端、妙に熱っぽい体臭がぷんと匂った。「お散歩ですの?」 女はひそめた声で訊いた。そして私の返事を待たず・・・<織田作之助「秋深き」青空文庫>
  10. ・・・変にこう身体がぞくぞくしてくるんで、『お出でなすったな』と思っていると、背後から左りの肩越しに、白い霧のようなものがすうっと冷たく顔を掠めて通り過ぎるのだ。俺は膝頭をがたがた慄わしながら、『やっぱし苦しいと見えて、また出やがったよ』と、泣笑・・・<葛西善蔵「贋物」青空文庫>
  11. ・・・しかしその足音は僕の背後へそうっと忍び寄って来て、そこでぴたりと止まってしまうんです。それが妄想というものでしょうね。僕にはその忍び寄った人間が僕の秘密を知っているように思えてならない。そして今にも襟髪を掴むか、今にも崖から突き落とすか、そ・・・<梶井基次郎「ある崖上の感情」青空文庫>
  12. ・・・ 綱雄といえば旅行先から、帰りがけにここへ立ち寄ると言ってよこしたが、お前はさぞ嬉しかろうなとからかい出す善平、またそのようなことを、もう私は存じませぬ、と光代はくるりと背後を向いて娘らしく怒りぬ。 善平は笑いながら、や、しかし綱雄・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  13. ・・・ 街頭の実践運動の背後には常に偉大なる思想がある。そして人間を実践的社会運動に駆る思想は倫理的思想である。共産主義の運動への情熱が日本の青年層を風靡し、犠牲的な行動にまで刺衝したのは、同主義の唯物的必然論にもかかわらず、依然として包蔵し・・・<倉田百三「学生と教養」青空文庫>
  14. ・・・ 軍刀が引きぬかれ、老人の背後に高く振りかざされた。形而上的なものを追おうとしていた眼と、強そうな両手は、注意力を老人の背後の一点に集中した。 老人はびく/\動いた。 氷のような悪寒が、電流のように速かに、兵卒達の全身を走った。・・・<黒島伝治「穴」青空文庫>
  15.    その一 ここは甲州の笛吹川の上流、東山梨の釜和原という村で、戸数もいくらも無い淋しいところである。背後は一帯の山つづきで、ちょうどその峰通りは西山梨との郡堺になっているほどであるから、もちろん樵夫や猟師でさえ踏・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  16. ・・・お三輪はその火鉢を前に、その箪笥を背後にして、どうかしてもう一度以前のような落ちついた心持に帰って見たいと願っていた。 このお三輪が震災に逢った頃は最早六十の上を三つも四つも越していた。父は浦和から出て、東京京橋の目貫な町中に小竹の店を・・・<島崎藤村「食堂」青空文庫>
  17. ・・・その上に、直ぐに頭が付いている。背後にだけ硬い白髪の生えている頭である。破れた靴が大き過ぎるので、足を持ち上げようとするたびに、踵が雪にくっついて残る。やはり外の男等のように両手を隠しに入れて頭を垂れている。しかし何者かがその体のうちに盛ん・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  18. ・・・変化は、背後から、やって来ました。とんとん、博士の脊中を軽く叩いたひとがございます。こんどは、ほんとう。」 長女は伏目がちに、そこまで語って、それからあわてて眼鏡をはずし、ハンケチで眼鏡の玉をせっせと拭きはじめた。これは、長女の多少てれ・・・<太宰治「愛と美について」青空文庫>
  19. ・・・かれは病院の背後の便所を思い出してゾッとした。急造の穴の掘りようが浅いので、臭気が鼻と眼とをはげしく撲つ。蠅がワンと飛ぶ。石灰の灰色に汚れたのが胸をむかむかさせる。 あれよりは……あそこにいるよりは、この闊々とした野の方がいい。どれほど・・・<田山花袋「一兵卒」青空文庫>
  20. ・・・ほぼこれと同大のガラス板に墨と赤および緑のインキでいいかげんな絵を描いたのをこの小さなスクリーンの直接の背後へくっつけて立てて、その後ろに石油ランプを置くだけである。もっともそのスクリーンの周囲の同平面をふろしきやボール紙でともかくもふさい・・・<寺田寅彦「映画時代」青空文庫>
  21. ・・・三吉がみたボルは、まだ学生ばかりであったが、三吉が背後にひいている生活、怪我してねている父親、たくさんのきょうだい、鼻のひくい嫁をすすめる母親、そんなことは説明しようがないのである。―― ――裂けめだ。―― 高島が鹿児島へ発った翌日・・・<徳永直「白い道」青空文庫>
  22. ・・・百花園は白鬚神社の背後にあるが、貧し気な裏町の小道を辿って、わざわざ見に行くにも及ばぬであろう。むかし土手の下にささやかな門をひかえた長命寺の堂宇も今はセメント造の小家となり、境内の石碑は一ツ残らず取除かれてしまい、牛の御前の社殿は言問橋の・・・<永井荷風「水のながれ」青空文庫>
  23. ・・・婆さんは黙然として余の背後に佇立している。 三階に上る。部屋の隅を見ると冷やかにカーライルの寝台が横わっている。青き戸帳が物静かに垂れて空しき臥床の裡は寂然として薄暗い。木は何の木か知らぬが細工はただ無器用で素朴であるというほかに何らの・・・<夏目漱石「カーライル博物館」青空文庫>
  24. ・・・しかしデカルト哲学には、デカルトからライプニッツに至るまでも、なお背後に中世哲学的なものがあった。神と自己との関係において、何処までも不徹底である。私はカント哲学に至って、純粋な科学の哲学に入ったと思う。カント哲学は科学的自己の自覚の哲学で・・・<西田幾多郎「デカルト哲学について」青空文庫>
  25. ・・・読者にしてもし、私の不思議な物語からして、事物と現象の背後に隠れているところの、或る第四次元の世界――景色の裏側の実在性――を仮想し得るとせば、この物語の一切は真実である。だが諸君にして、もしそれを仮想し得ないとするならば、私の現実に経験し・・・<萩原朔太郎「猫町」青空文庫>
  26. ・・・と、にッこり会釈し、今奥へ行こうとする吉里の背後から、「花魁、困るじゃアありませんか」「今行くッたらいいじゃアないか。ああうるさいよ」と、吉里は振り向きもしないで上の間へ入ッた。 客は二人である。西宮は床の間を背に胡座を組み、平田は・・・<広津柳浪「今戸心中」青空文庫>
  27. ・・・ 爺いさんが背後を振り返った時には、一本腕はもう晩食をしまっていた。一本腕はナイフと瓶とを隠しにしまった。そしてやっと人づきあいのいい人間になった。「なんと云う天気だい。たまらないなあ。」 爺いさんは黙って少し離れた所に腰を掛けた。・・・<著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外「橋の下」青空文庫>
  28. ・・・第二にはジネストの奥さんの手紙が表面には法律上と処世上との顧問を自分に託するようであって、その背後に別に何物かが潜んでいるように感じたからである。無論尋常の密会を求める色文では無い。しかしマドレエヌは現在の煩悶を遁れて、過去の記念の甘みが味・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  29. ・・・これは去年病中に『水滸伝』を読んだ時に、望見前面、満目蘆花、一派大江、滔々滾々、正来潯陽江辺、只聴得背後喊叫、火把乱明、吹風胡哨将来、という景色が面白いと感じて、こんな景色が俳句になったら面白かろうと思うた事があるので、川の景色の聯想から、・・・<正岡子規「句合の月」青空文庫>
  30. ・・・ また、或る婦人雑誌はその背後にある団体独特の合理主義に立ち、そして『婦人画報』は、或る趣味と近代機智の閃きを添えて、いずれも、これらのトピックを語りふるして来たものである。 ところが、今日、これらの題目は、この雑誌の上で、全く堂々・・・<宮本百合子「合図の旗」青空文庫>