・・・ 私は、さま/″\の忘れられた懐しい夢を、もう一度見せてくれる、また心を、不可思議な、奥深い怪奇な、感情の洞穴に魅しくれる、此種の芸術に接するたびに、之を愛慕し、之を尊重視するの念を禁じ得ない。・・・ 小川未明 「忘れられたる感情」
・・・其は、母が哀慕していた謙吉さんという人が、アメリカ土産にお孝さんにあげたものだったそうだ。妹の長女である私は小さいとき、謙吉さんから養女にもらわれかかったことがあったという話も、いつか夫人につたわって、その指環をいただくことにもなったと思わ・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・その人々の真情に痛みあふれている良人への愛慕や、その愛の故に、自分の毎日は内容があり生き甲斐もあるものとしていかなければならないと思って努力している若い心と肉体とは、未亡人というよび名をきいたときどんなに異様に感じ、気味わるく思うことだろう・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ 彼女が、どんなに故良人を愛慕しているかと云うことは、些細な言葉の端々にもうかがわれました。若し出来るなら、真個に一生彼の妻として終始したいと云う彼女の希望には微塵も嘘はありません。 然しそれなら、恒産も無く、老後を扶養して呉れる縁・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・リュシアン 兵士のメニュエルに介抱される メニュエルとリュシアンの感情p.114 ナンシイの名医王党派デュ・ポワリエ氏○の chapter ド・シャトレール夫人への恋 彼女のリュシアンへの愛慕〔欄外に〕 スタンダール・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・ 二 生活の日々が、夫に死なれた妻の悲しみや愛慕の感情もいつとはなしにおし流して四年、七年と経った今日、気がついて眺める自分の心の中では、かつての愛や悲しみも、歩いて来た道のうしろに遠のいて、みちしるべのよ・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・ある者は自然の前に跪拝し、ある者は自然を恋人のごとく愛慕する。そうして常に自然から教わるという心掛けを失わない。しかし日本画家は自然に対してあたかも雇主のごとき態度を持している。ある気分、ある想念を現わすために、自然を使役し、時にはそれを非・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・首なき母親に哺育せられた新王は、この慈悲深い母妃への愛慕のあまりに、母妃の蘇りに努力し、ついにそれに成功するのである。そうして日本へ飛来する時には母妃をも伴なってくる。だから首なくしてなおその乳房で嬰児を養っていた妃が熊野の権現となるのであ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・パリの批評家にしてウィーンの青年文学者に愛慕せられたサルセエ氏もこの年初めて彼女を見て、芸術ではない恐ろしい自然の力だ、と言った。お世辞のよいサラ・ベルナアルでさえあのひとは天才ではないと批評した。イギリスにおける第一印象は、激烈なる感動に・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫