-
・・・大きな眼鏡を赤鼻の先に掛け、布の張った枠に向うと、お婆さんは、飽きるの疲れるのということを知らず、夜までチカチカと一本の針を光らせて、いろいろ綺麗な模様を繍い出して行くのでした。 下絵などというものはどこにもないのに、お婆さんの繍ったも・・・
宮本百合子
「ようか月の晩」
-
・・・しかしそれも朝から晩までしていたら、単調になって厭きるだろう。今の詰まらない為事にも、この単調を破るだけの功能はあるのである。 この為事を罷めたあとで、著作生活の単調を破るにはどうしよう。それは社交もある。旅もある。しかしそれには金がい・・・
森鴎外
「あそび」