・・・権力が行ったすべての悪業のうち最も若き人々に対してあやまるべき点は、若い人間の宝であるその人々の人間的真実を愚弄したことである。活々として初々しい理性の発芽を、いきなり霜枯れさせた点である。今日、聰明で、誠実な若い世代は、自身の世代が蒙った・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・ブルジョア文壇に悪行があるとすればそれはとりも直さずその作家たちの属する社会層の悪行であり、その根絶への方向は、一作家の文壇の枠内でのジタバタ騒ぎにすぎないことはわれわれの目に明らかなのである。 さて再び、自然主義以来の老大家の作品とそ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・その善行なり、悪行なりの素因を万人は彼等の心事に見出そうとするように、私共が、或る国民の生活を観察する場合、漠然となりとも正鵠を得た、民族的気質を知らなければいけないと思うのです。 それなら、米国人は、どんな気質、性格を持っているでしょ・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・マルヌッフ夫婦の悪行で曇った食事皿の中の隠元豆に引き合わしてしまうまで、バルザックは一旦掴んだ我々の手頸を離さぬ。更に、ポーランドの独立運動に対する妥協のない作者の反感。常にイギリスに反撥して示される民族主義的な誇、「私の政敵は即ちこの政敵・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・おのおの手には帳面を持ち、その行為がよいと批評されれば、人生に於けるあらゆる斯の如き種類の行動の下に、よし、と書き込み、悪いと云われればまた、同じ総体を、一言の下に、恐るべき悪行と断定する。人生の、あらゆる行為の価値は、明に個々の行為者に属・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・ 勿論虎屋と云っても、別に特別な悪行をしかけたこともなかったが、そう云う名の苟且にもある者に対しての心持は、決して朗らかには行かない。 それがフランクに、友人として、種々のことを話したり、「随分ぼろ家ですからね」と、仮令金高・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫