・・・……天麸羅のあとで、ヒレの大切れのすき焼は、なかなか、幕下でも、前頭でも、番附か逸話に名の出るほどの人物でなくてはあしらい兼ねる。素通りをすることになった。遺憾さに、内は広し、座敷は多し、程は遠い……「お誓さん。」 黒塀を――惚れた・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・泥のままのと、一笊は、藍浅く、颯と青に洗上げたのを、ころころと三つばかり、お町が取って、七輪へ載せ、尉を払い、火箸であしらい、媚かしい端折のまま、懐紙で煽ぐのに、手巾で軽く髪の艶を庇ったので、ほんのりと珊瑚の透くのが、三杯目の硝子盃に透いて・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・へん、お堀端あこちとらのお成り筋だぞ、まかり間違やあ胴上げして鴨のあしらいにしてやらあ」 口を極めてすでに立ち去りたる巡査を罵り、満腔の熱気を吐きつつ、思わず腕を擦りしが、四谷組合と記したる煤け提灯の蝋燭を今継ぎ足して、力なげに梶棒を取・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ごと焼いて、うまく皮を剥いたのへ、花鰹を振って醤油をかけたのさ、それが又なかなかうまいのだ、いつの間にそんな事をやったか其の小手廻しのえいことと云ったら、お町は一苦労しただけあって、話の筋も通って人のあしらいもそりゃ感心なもんよ。 すと・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・洋盃へついで果物をあしらい盆にのせる。その正確な敏捷さは見ていておもしろかった。「お前達は並んでアラビア兵のようだ」「そや、バグダッドの祭のようだ」「腹が第一滅っていたんだな」 ずらっと並んだ洋酒の壜を見ながら自分は少し麦酒・・・ 梶井基次郎 「泥濘」
・・・をほめては呉れなかったし、友人たちもまた、世評どおりに彼をあしらい、彼を呼ぶに鶴という鳥類の名で以てした。わかい群集は、英雄の失脚にも敏感である。本は恥かしくて言えないほど僅少の部数しか売れなかった。街をとおる人たちは、もとよりあかの他人に・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・僕は、あの笠井氏から、あまりにも口汚く罵倒せられ、さすがに口惜しく、その鬱憤が恋人のほうに向き、その翌日、おかみが僕の社におどおど訪ねて来たのを冷たくあしらい、前夜の屈辱を洗いざらい、少しく誇張さえまぜて言って聞かせて、僕も男として、あれだ・・・ 太宰治 「女類」
・・・そうするとあなたたちはまた、東京で暮して来た奴等は、むだ使いしてだらしがないと言うし、それかと言って、あなたたちと同様にケチな暮し方をするともう、本物の貧乏人の、みじめな、まるでもう毛虫か乞食みたいなあしらいを頂戴するし、いったい、あなたの・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・ モンタージュはすなわちモンテーであり、マウンティングであり、日本語では取り付け、取り合わせ、付け合わせ、あしらいである。花を生けるのもこれである。試みに西川一草亭一門の生けた花を見れば、いかに草と木と、花と花と、花と花器とのモンタージ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・と変に熱心なおいでおいでをした。石川は、なお尻尾を振って彼の囲りを跳び廻る犬を、「こらこら、さあもう行った、行った」とあしらいながら、何気なく表の土間に入った。上り端の座布団に男女連れがかけていた。入って行った石川の方に振り向い・・・ 宮本百合子 「牡丹」
出典:青空文庫