・・・ 不思議なことに、赤い蝋燭が、山のお宮に点った晩は、どんなに天気がよくても忽ち大あらしになりました。それから、赤い蝋燭は、不吉ということになりました。蝋燭屋の年より夫婦は、神様の罰が当ったのだといって、それぎり蝋燭屋をやめてしまいました・・・ 小川未明 「赤い蝋燭と人魚」
・・・ 不思議なことには、その後、赤いろうそくが、山のお宮に点った晩は、いままで、どんなに天気がよくても、たちまち大あらしとなりました。それから、赤いろうそくは、不吉ということになりました。ろうそく屋の年より夫婦は、神さまの罰が当たったのだと・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・「俺たちは、今夜、あらしを呼んで、街を襲撃しよう。」と、ひのきの木は、どなりました。「私たちの力で、ひとたまりもなく、人間の街をもみくだいてやろう。」と、たかは叫びました。 たかは、黒雲に、伝令すべく、夕闇の空に翔け上りました。・・・ 小川未明 「あらしの前の木と鳥の会話」
・・・そして、すずめたちは、かがしを侮って、稲を荒らしましたが、ある日、おじいさんの息子の打った、ほんとうの鉄砲で、みんな殺されてしまいました。 いつでも、ばかとりこうとは、ちょっと見分けのつかぬものです。・・・ 小川未明 「からすとかがし」
・・・にこんなに永く逗留するつもりじゃなかったんだが、君とも心安くなるし、ついこんなに永逗留をしてしまったわけさ、それでね、君に旅用だけでも遺してってあげようと思ったんだが、広くもねえ町を、あまりいつまでも荒したもんだから、人がもう寄らなくなって・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・インケツの松と名乗って京極や千本の盛り場を荒しているうちに、だんだんに顔が売れ、随分男も泣かしたが、女も泣かした。面白い目もして来たが、背中のこれさえなければ堅気の暮しも出来たろうにと思えば、やはり寂しく、だから競馬へ行っても自分の一生を支・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・それで、二年分もあるのだが、自分の家に焚きものとするとて、畠のつゞきの荒らした所へ高く積み重ねて、腐らないように屋根を作りつけて、かこって置くのだ。「よいしょ。」「よい来た。」「よいしょ。」「よい来た。」 宗保は、ねそを・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
・・・ 麦を荒らしちゃいかんが!」 それは、自分の畑を守っている宇一だった。「叱ッ、これゃ、あっちへ行けい!」 どれもこれも自分の豚ではなかったので彼は力いっぱいに、やって来るやつをぶん殴った。豚は彼の猛打を浴びて、またそこからワイシ・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・そして、その山を隅から隅まで荒らした。 這入って行きしなに縄にふれると、向うで鈴が鳴った。すると、樫の棒を持った番人が銅羅声をあげて、掛小屋の中から走り出て来る。 が、番人が現場へやって来る頃には、僕等はちゃんと、五六本の松茸を・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・二人が靴で踏み荒した雪の上へ新しい雪は地ならしをしたように平らかに降った。しかし、そこには、新しい趾跡は、殆んど印されなくなった。「これじゃ、シベリアの兎の種がつきるぞ。」 二人はそう云って笑った。 一日、一日、遠く丘を越え、谷・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
出典:青空文庫