・・・そして、最も自然な、在り得べき想像として、一人の信頼すべき異性が、自分の最も近い朋友と成ったと仮定します。 その場合、その人に対する友情は、自分の語り度い、忘れ得ない愛する者を、倶に愛し、認めてくれる、という点に源泉を持っているのです。・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・一人、四国の漢学者の浪人アリ。攘夷論の熾なとき故一つ殺してやろう、その前に何というかきいてやれと会った。ニコライ、まだ来たて故日本語下手だが話して居るうちに迚も斬れず。空しくかえる。〔欄外に〕○丁度一八六〇年頃フナロードの始った頃。・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ ○山の皺にまだ雪アリ ○四五月頃の温泉あまりよくなし。 ○枯山に白くコブシの野生の花 遠くから見える景色よし 都会の公園 日比谷公園 六月二十七日 ○梅雨らしく小雨のふったり上ったりする午後、・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ ここを見ると、帝政時代のロシアが政治犯をどんなに虐待したかが、アリアリわかる。写真を四方八方から撮って、詳細極まる人相書をこしらえているばかりではない。鉄の手枷足枷まではめたレーニンが、一八九五年にまだ大学生で政治犯としてシベリアに送・・・ 宮本百合子 「ロシアの過去を物語る革命博物館を観る」
・・・ これより二年目、寛永三年九月六日主上二条の御城へ行幸遊ばされ妙解院殿へかの名香を御所望有之すなわちこれを献ぜらるる、主上叡感有りて「たぐひありと誰かはいはむ末にほふ秋より後のしら菊の花」と申す古歌の心にて、白菊と名附けさせ給由承り候。・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・ある時はわが大学に在りしことを聞知りてか、学士博士などいう人々三文の価なしということしたり顔に弁じぬ。さすがにことわりなきにもあらねど、これにてわれを傷けんとおもうは抑迷ならずや。おりおり詩歌など吟ずるを聞くに皆訛れり。おもうにヰルヘルム、・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・茸の価値は茸の有り方であり、その有り方は茸を見いだす我々人間の存在の仕方にもとづくのである。 ここに問題とした茸の価値は、茸の使用価値でもなければまた交換価値でもない。が、これらの価値の間に一定の連関の存することは否み難いであろう。いわ・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・寺田さんはそこにも問題の在り場所を教え、その解き方を暗示してくれる。そういう仕方で目の錯覚、物忌み、嗜虐性、喫煙欲というような事柄へも連れて行かれれば、また地図や映画や文芸などの深い意味をも教えられる。我々はそれほどの不思議、それほどの意味・・・ 和辻哲郎 「寺田寅彦」
出典:青空文庫