・・・と、今度は脳神経中枢のどこか前とはちがった部分のちがった活動がスタートを切って、今までとはまた少しちがった場所にちがった化学作用が起こり始め、そうしてまた前とはちがった化学物質が生成されたり、ちがったイオン濃度の分配が設定されたりする。それ・・・ 寺田寅彦 「映画と生理」
・・・という言葉がなんべんとなく記事の間に繰り返されているのをなんのことかとよく考えてみたら、それは「イオン」のことであったのである。 このごろの新聞の科学記事には、そういうのは容易に見当たらない。それというのも大概は科学者自身に筆を執らせて・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・のみならず、焼かれた皮膚の局部では蛋白質が分解して血液の水素イオン濃度が変わったり、周囲に対する電位が変わったり、ともかくもその付近の細胞にとっては重大な事件が起こる。それが一つの有機体であるところの身体の全部にたとえ微少でもなんらかの影響・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・特に荷電されたガスのイオンのようなものでも湿気が充分多くていわゆる過飽和度が高ければ、やはり凝縮を起す事が明らかになった。しかし実際の空気中ではそれほどの過飽和状態はないから、雲や霧の凝縮を起すものはそれよりも大きいものであろうと考えられる・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ その後にまた、大湯附近の空気中のイオンを計測するために出張を命ぜられて来たときは人車鉄道が汽車の軽便鉄道に変っていたが、それでもまだやはり朝東京を出て夕方熱海へ着く勘定であったように思う。去年はじめて省線電車で熱海へ行ったときは時間の・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
出典:青空文庫