・・・ある、彼等は自ら神の寵児なりと信じ、来世の裁判の如きは決して彼等に臨まざることと信ずるのである、然し乍ら基督者とは素々是等現代人の如き者ではなかった、彼等は神の愛を知る前に多く神を懼れたる者である、「活ける神の手に陥るは恐るべき事なり」とは・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・「たとえ、そこへいっても、どうして食べていけるかわかりません。石を投げつけられたり、みんなに目の敵にされていじめられるばかりです。」と、からすは身の不運を歎きました。 かもめは、都では、はとがみんなにかわいがられて、子供らから豆をも・・・ 小川未明 「馬を殺したからす」
・・・ 女は、仏さまに、どうかあの世へとどこおりなくいけるようにと祈りました。そして、ついに目を閉じるときがきました。 女は、この世を去ったのです。けれど、霊魂は女の念じたように、あの世へゆく旅に上りました。 女は、長い道を歩きました・・・ 小川未明 「ちょうと三つの石」
・・・もともといける口だし、借も利くので、つい飲みすごしてしまう。私はもうたいした野心もなく、大金持になろうなどと思ってはいなかったというものの、勘当されている身の上を考えれば、やはり少しはましな人間になって、大手を振って親きょうだいに会えるよう・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・「じゃ、僕のは無くてもいけるだろう。来月にのばしちゃえよ」「だめ! あんたが書くまで、僕は帰らんからね」「泊り込みか。ざまア見ろ」 Aさんは笑いながら出て行った。「書きゃいいんだろう、書きゃア」 武田さんはAさんの背・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・そのことについては吉田は自分のことも考え、また母親のことも考えて看護婦を呼ぶことを提議したのだったが、母親は「自分さえ辛抱すればやっていける」という吉田にとっては非常に苦痛な考えを固執していてそれを取り上げなかった。そしてこんな場合になって・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・ 叔母のいいけるは昨夜夜ふけて二郎一束の手紙に油を注ぎ火を放ちて庭に投げいだしけるに、火は雨中に燃えていよいよ赤く、しばしは庭のすみずみを照らししばらくして次第に消えゆくをかれは静かにながめてありしが火消えて後もややしばらくは真闇なる庭・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ この時、一人の童たちまち叫びていいけるは、見よや、見よや、伊豆の山の火はや見えそめたり、いかなればわれらが火は燃えざるぞと。童らは斉しく立ちあがりて沖の方をうちまもりぬ。げに相模湾を隔てて、一点二点の火、鬼火かと怪しまるるばかり、明滅・・・ 国木田独歩 「たき火」
・・・とある横町の貧しげな家ばかり並んでいる中に挾まって九尺間口の二階屋、その二階が「活ける西国立志編」君の巣である。「桂君という人があなたの処にいますか」「ヘイいらっしやいます、あの書生さんでしょう」との山の神の挨拶。声を聞きつけてミシ・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・そして実はその倫理的な問いたるや、すでに青年の胸を悩まし、圧しつけ、迷わしめているところの、活ける人生の実践的疑団でなくてはならないのだ。 かくてこそ倫理学の書をひもどくや、自分の悩んでいる諸問題がそこに取り扱われ、解決を見出さんとして・・・ 倉田百三 「学生と教養」
出典:青空文庫