・・・母からは学校から帰ると論語とか孝経とかを読ませられたのである。一意意味もわからず、素読するのであるが、よく母から鋭く叱られてめそめそ泣いたことを記憶している。父はしかしこれからの人間は外国人を相手にするのであるから外国語の必要があるというの・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・お石が来なくなってから彼は一意唯銭を得ることばかり腐心した。其年は雨が順よく降った。彼はいつでも冬季の間に肥料を拵えて枯らして置くことを怠らなかった。西瓜の粒が大きく成るというので彼は秋のうちに溝の底に靡いて居る石菖蒲を泥と一つに掻きあげて・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・しかしこの記者の目的は美人に非ず、酒に非ず、談話に非ず、ただ一意大食にある事は甚だ余の賛成を表する所である。 この紀行が『二六新報』に出た時には三種の紀行が同時に同新報の上に載せられた。その内で世間の評判を聞くと血達磨の九州旅行が最も受・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・この模型をごらんなさい。」 先生は中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸レンズを指しました。「天の川の形はちょうどこんななのです。このいちいちの光るつぶがみんな私どもの太陽と同じようにじぶんで光っている星だと考えます。私ども・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・その原因について、男の文学者の或る人は、女性の社会感覚がせまいことがかえって幸して、主観のうちにとらえられている主題を外界に煩わされずに――荒々しい社会性に妨げられずに一意専念自分の手に入った技巧でたどってゆくから、この文学荒廃の時期に、婦・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
出典:青空文庫