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・・・ 騎兵は言下に刀をかざすと、一打に若い支那人を斬った。支那人の頭は躍るように、枯柳の根もとに転げ落ちた。血は見る見る黄ばんだ土に、大きい斑点を拡げ出した。「よし。見事だ。」 将軍は愉快そうに頷きながら、それなり馬を歩ませて行った・・・
芥川竜之介
「将軍」
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・・・何の罪なく眠れるものを、ただ一打ととびかかり、鋭い爪でその柔な身体をちぎる、鳥は声さえよう発てぬ、こちらはそれを嘲笑いつつ、引き裂くじゃ。何たるあわれのことじゃ。この身とて、今は法師にて、鳥も魚も襲わねど、昔おもえば身も世もあらぬ。ああ罪業・・・
宮沢賢治
「二十六夜」