・・・たとえば今、日本大政府の諸省に用うる十露盤も、寒村僻邑の小店に用うる十露盤も、乗除の声に異同なきは、上下の勘定法に関所なきものなり。帳合の法もかくありたきことと余輩の願う所なり。あるいはまた前の如く、二五八三と記すを不便なりといえば、平たく・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・量もこれぐらいならちょうどいい。移動のぐあいもいいらしい。あと四時間やれば、もうこの地方は今月中はたくさんだろう。つづけてやってくれたまえ。」 ブドリはもううれしくってはね上がりたいくらいでした。 この雲の下で昔の赤ひげの主人も、と・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・小粒ながらも胡椒のきいたその移動演劇は、ナチスにとっては小柄な蜂のように邪魔であった。エリカは、舞台のうえにいていくたびか狙撃された。が、無事に千回以上の公演をつづけたが、一九三六年、解散させられた。チューリッヒで、「公安妨害」の口実で公演・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 現に移動劇場の仕事は、よくこの諷刺文学の、小粒な活力を利用してわれわれに見せている。 作家がそういう小粒で便利な武器をどうしてドシドシ作れるか? ほんとに大衆と職場の動きを知らなければならないということになるのである。〔一九三一年・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・そして、明日はと全く別なところへ移動させられ、技術は只迅いとか仕上げが奇麗とかいうところでだけ評価され、決してそのひとがより精密な高度なトレーサアとして成熟してゆくような機会はなく、こきつかわれる。給料は勿論やすい。やすいからこそ女があらゆ・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・人間は生物として自然科学の対象であるばかりでなく、社会をつくって来た民族の歴史からも見られる意味で、イギリスの人類学と民族学の教授ハッドンの書いた「民族移動史」は、地球の面に行われた人類の移行の理由と結果とをある程度まで知らせると思う。それ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・普通の自動車にレントゲン装置と、モーターと結びついて動く発電機を取りつけたもので、この完全な移動X光線班は一九一四年八月から各病院を廻り始めた。フランスの運命を好転させた歴史的な戦いであるマルヌの戦闘で、故国のために傷ついた人々は、パリへ後・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ マーニャは、ワルソーの市中をあちらからこちらへと家庭教師の出教授をして働く合間に、好学の若い男女によって組織されていた「移動大学」に出席して、解剖学、自然科学、社会学などの勉強をしました。そして、そこで学んだ知識をもって、工場に働いて・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ ある季節になると、朝鮮海峡をわたって、美しい数万の蝶々が移動するときの話をきいた。翅の薄い、体の軟い弱い蝶々は幾万とかたまって空を覆って飛び、疲れると波の上にみんなで浮いて休み、また飛び立って旅をつづけ、よく統制がとれて殆ど落伍するも・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・これは固定図書館だ。移動図書館は四万にふえる。 本を読むのには図書館の外に農村では「読書の家」というものがある。一九二八年 二一、八七六一九三三年 三八、二八三 図書室、文学、音楽、美術、体育、政治などの研究・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
出典:青空文庫