・・・ここへ植えるのはすずめのかたびらじゃない、すずめのてっぽうだよ。そうそう。どっちもすずめなもんだからつい間違えてね。ハッハッハ。よう。ビチュコ。おい。ビチュコ、そこの穴うめて呉れ。いいかい。そら、投げるよ。ようし来た。ああ、しまった。さあひ・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ そして納屋から唐鍬を持ち出してぽくりぽくりと芝を起して杉苗を植える穴を掘りはじめました。 虔十の兄さんがあとを追って来てそれを見て云いました。「虔十、杉ぁ植える時、掘らなぃばわがなぃんだじゃ。明日まで待て。おれ、苗買って来てや・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・桜の木なんか植えるとき根を束ねるようにしてまっすぐに下げて植えると土から上の方も箒のように立ちましょう。広げれば広がります。〕「そんだ。林学でおら習った。」何と云ったかな。このせいの高い眼の大きな生徒。坂になったな。ごろごろ石が落ち・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・腕をもっている人たち、働けば拵えられる人々が、坐って飢えるのを待っているだろうとは思われない。拵えたものが農村で入用だのに、その代りとして農産物を出したくないという非常識なものがあろうとも思えない。では、その二つの極を、どういう仕組みで繋い・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・「ふーむ、馬や牛より木を植える方がいいや、第一食わせなくっていいもん」 後の席の男 春外套の鼠色のを着、鼻髭のある四十がらみの男、先ず「その鞄あぶなかあねえか」と云う、動き出してから「ああ、いい道ですな、これならいい・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・人間共に未来を見せず、奴等の悦ぶ思弁にこじつけてさも世界を救う大思想のように思わせ思わせ野心と所有の慾望を徐ろ徐ろ植える手際には、俺も参った。生れては死に、死んでは生れる人間共が、太古の森も見えない程建て連ねて行く城や寺院、繁華な都市が、皆・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・離れるより餓える方を選んだ。そして、いくつもの朝と夜とがすぎた。が、その小舎の前には、もう久しく同じ弓矢が、かけられたままになっている。 野蛮な部落の人々のこころに疑問がわいて来た。考える能力がおぼろげながら発動して、部落の人々は、この・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・自分の指先で植える一つ一つの字が、自分たちの階級の善意を愚弄するような本質のものであるのに、その作業から経営者が厖大な利潤を得るからそれを合理的分配に置こうとするだけであるなら、勤労者の人間としての要求は、一面的だと思われる。直接の関係がそ・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・ 幸雄は、植える松の根を、職人が多勢かかって締めているのを見ながら、「勤めなんかいやだねえ」と答えた。「何です? 法律ですか御専門は」「経済だよ」「――実業家ですね」「…………」 幸雄は、母親のことを石川に話・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・諷刺として、この点を興味ふかくとらえるならば、演出者は、ルネッサンスを歴史性ぬきの人間解放の面からだけ解説せず、その暗黒さにおいてもリアルに解説して、観衆の心に笑いながらいつか心にのこされてゆく疑問を植えるべきではなかったろうか。 ベリ・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
出典:青空文庫